研究課題/領域番号 |
18K19892
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
本間 経康 東北大学, 医学系研究科, 教授 (30282023)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 計算機支援診断システム |
研究実績の概要 |
本研究では、医療画像ビッグデータを基に深層学習などの機械学習を用いて、専門医レベルを凌駕する革新的なX線画像診断を実現するような、新時代の人工知能支援診断(artificial intelligence-aided diagnosis, AID)システムの開発に挑戦している。本年度は、とくに乳房X線画像用の深層学習を用いたAIDシステムのプロトタイプを開発し、基礎的な性能評価を行った。
1. 腫瘤検出・鑑別AIDシステムの構築:小規模データベースと転移学習を用いて、我々がこれまでに構築した深層学習ニューラルネット(deep convolutional neural network, DCNN)を基に、種々のDCNNを用いて複数の乳房X線画像用AIDシステムのプロトタイプを計算機上に実装した。とくに、乳房X線画像の主要な乳がん所見のうち、従来のCADシステムで十分な性能が得られていない、腫瘤を正確に検出・鑑別するAIDシステムを構築し、DCNNの違いによる性能差を詳しく考察した。その結果、検出対象となる候補領域を絞る前処理やDCNNに内蔵されている候補領域選択機能の違いが性能に大きく影響することが明らかになった。これは、AIDシステム設計上、重要な知見である。
2. 病理診断結果も考慮したAIDシステムの構築:上述1.で構築したAIDシステムに、乳房X線画像診断結果だけでなく、乳がん症例の病理診断結果なども新たに付加した訓練用臨床データを用いて、従来の乳房X線画像診断を凌駕する革新的診断性能をもつAIDシステムの構築に挑戦した。その結果、医師でも良悪性の判定が難しく、精密検査を行った約半数が良性と判定された症例群に対し、約65%の正解率を達成し、医師の診断性能を凌ぐ新たなAIDシステムの実現可能性が示唆された。これは、従来の放射線診断学を超えた新たな診断論理の存在を示唆するものであり、当該分野の発展につながる極めて重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究計画のうち、医療画像ビッグデータの整備、とくに大量の臨床画像は入手済であるが、AIDを訓練するための正解データの整備が若干遅れている。これは、専門家による注意深い作成作業になるため、時間がかかることはある程度やむを得ない。また、着実に整備は進んでおり、次年度以降で対応可能である。一方、AIDシステムのプロトタイプ実装や種々のDCNN比較は順調であり、さらに病理診断結果を考慮したAIDシステムは予備実験段階であるものの、専門医の診断性能を凌ぐ可能性を示唆しており、予想以上の進展である。以上を総合して,概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
AIDシステムのプロトタイプ実装と性能評価が概ね本年度で完了したため、次年度は予定通りさらなる性能向上を目指す。また、乳房X線画像上の主な乳がん所見のうち、まだ開発を行っていない微小石灰化群と構築の乱れに対するAIDシステムのプロトタイプを実装し、性能評価を行う計画である。さらに、正解データの整備が終わり次第ビッグデータによる訓練を行い、プロトタイプのAIDシステムの性能限界を考察することに加え、病理診断結果により従来の画像診断を凌駕するAIDシステムの本格実装も進める予定である。準備中の論文投稿の完成を急ぐとともに、以上の結果をまとめた成果発表も充実させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定されていた、開発環境のワークステーション導入において、経済性ならびに性能的にも優れる汎用並列演算器の新製品調達を試みたところ、発売延期と品薄により導入を延期せざるを得なかった。代替措置により開発への影響は最小限に抑えたものの、予算執行の遅れを招いた。幸い品薄状態は緩和傾向にあり、調達に目途が立ったため、新年度は速やかな執行を行う計画である。これにより、実装や実験を円滑に進め、開発を加速させる。
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