最終年度の2020年度は、これまで未解明であったプラズマ荷電コラーゲン溶液の細胞接着性向上メカニズムの本質を明らかにすることを試みた。2018、2019年度に明らかにしたプラズマ処理による溶液の表面張力・濡れ性の一時的な変化に加え、コラーゲン分子そのものに変化が生じていることを明らかにした。ラマン分光法により、プロリンとヒドロキシプロリンの結合状態にプラズマ処理特異的な変化が生じることがわかった。また、これらの結合状態に起因してコラーゲン分子の疎水性側鎖の向きが変化し、コラーゲン分子がミセル状の集合体を形成することを明らかにした。以上の結果より、プラズマ処理による液体物性およびコラーゲン分子の結合・会合状態の変化が、プラズマ荷電コラーゲン溶液の細胞接着性向上の要因であるとの結論に至った。 また、組織接着性の評価のための微小荷重引張試験機を設計・試作し、市販の位相差顕微鏡に組み込むことで、細胞シートや薄い皮膚組織などの接着力評価の実現に成功した。組織を引張治具に固定する部分において、組織の損傷(切れ)が生じる問題が多く認められたため、今後は組織固定部分の構造をさらに改良する必要がある。研究期間中には、固定部分における組織の損傷を回避するためにPDMS製の薄膜の上に細胞シートを定着させて引張試験を行った。その結果、PDMS製薄膜と細胞シートそれぞれの引張強度を複合した特性値を計測することができた。より精度の高い組織接着力の評価を行うためには、ロードセルの定格容量、組織固定治具の固定方法を検討する必要があるが、概ね設定した仕様を満足する性能の試験装置が開発できた。
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