研究課題/領域番号 |
18K19895
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川下 将一 東北大学, 医工学研究科, 准教授 (70314234)
|
研究分担者 |
金高 弘恭 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (50292222)
小川 智之 東北大学, 工学研究科, 助教 (50372305)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 窒化鉄 / 微小球 / 温熱治療 |
研究実績の概要 |
近年、がんの治療方法として外科手術や化学療法に替わる、より低侵襲かつ効果的な治療法の開発が求められている。その一つに温熱療法があり、マグネタイトなどの酸化鉄微粒子が交流磁場中で発熱することを利用した温熱治療用材料の研究が行われてきた。窒化鉄(FexNy)にはマグネタイトよりも高い飽和磁化を示す。窒化鉄はマグネタイトに替わる温熱治療用材料への応用が期待できる。そこで本研究では、マグネタイトを出発原料として窒化鉄の合成を試みた。得られた窒化鉄の構造および磁気特性を評価し、さらに交流磁場下での発熱量を見積もり、ラット由来線維芽細胞(Rat-1細胞)に対する毒性を評価し、これまで生体材料としての研究が進められてきたマグネタイトナノ粒子(MNPs)のそれと比較した。 その結果、MNPsを還元することにより鉄が得られ、さらにこれを窒化することにより窒化鉄の一つであるFe16N2が得られた。また、窒化処理時間の増加とともにFe16N2相の割合は増大した。特に40時間窒化したサンプルの飽和磁化および保磁力は190 emu/g、1000 Oeとなり、出発原料のMNPsのそれら(70 emu/g、160 Oe)よりも大きな値となった。また、磁化曲線から100 kHz、300 Oeの交流磁場下での磁気ヒステリシス損失による発熱量を見積もると、Fe16N2は20 W/g、MNPsは17 W/gとなった。従って、Fe16N2を用いることで高効率な温熱治療の実現が期待できることがわかった。さらに、サンプルをラット線維芽細胞の培地に直接添加したところ、FexNyナノ粒子とMNPsとの間に毒性の違いはみられなかった。以上より、窒化鉄ナノ粒子が従来生体材料として研究されてきたMNPsと同等の細胞適合性を示し、より高い発熱能を示す温熱種となり得ることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒化鉄微小球を得るには未だ至っていないが、その素材となる窒化鉄ナノ粒子の合成条件を見出すことには成功し、その構造および磁気的特性を明らかにできた。また、磁気ヒステリシス曲線から窒化鉄ナ粒子の発熱特性を明らかにし、同窒化鉄ナノ粒子の生体適合性をも明らかにすることができた。従って、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度は窒化鉄微小球の作製に取り組み、その構造、磁気的性質、交流磁場下での発熱特性および生体適合性を明らかにする予定である。既にコアとなるシリカガラス微粒子や実験に要する試薬や器具類は準備できており、平成31年度早々に取り掛かる予定である。なお、交流磁場下でのサンプルの発熱測定は、交流磁場装置導入後(おそらく6月以降)に行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は窒化鉄微小球を合成する予定であったが、その前段階として窒化鉄ナノ粒子の合成とその物性評価を行うこととした。窒化鉄ナノ粒子の合成および物性評価に要する費用は、窒化鉄微小球のそれらよりもやや低いが、サンプルを安定的に合成する条件を見出すのに予想よりも長い期間を要したたため、次年度使用額が生じた。平成31年度は、翌年度分として請求した助成金と合わせて窒化鉄微小球の合成及び評価に必要な物品を購入し、研究に取り組む予定である。
|