神経・筋肉系で確立を遂げた電気的な計測・制御の技術体系を皮膚に展開し、角質バリアを中心とする皮膚機能を,表皮層のイオン構造(イオン局在)に対応付けて理解するために、表皮電位を刺激応答の現場(in-situ)で計測するための技術開発を進めた。先ず、皮下注射用の無痛微小針に伝導性ゲルを充填した表皮下用電極を作製し、これと皮膚表面用電極を一つに束ねたプローブ型表皮電位計測デバイスを世界で初めて開発した。ブタ皮膚を用いた実験によって、低侵襲かつ定量的な表皮電位の測定に成功し、デバイスによる局所表皮電位の簡易測定が可能であることを実証した。次に、アセトンによる脱脂で角質バリアを破壊したブタ皮膚切片に対して、バリア破壊領域において表皮電位の低下が確認できた。別途測定した水分蒸散量データとの比較検討によって、表皮電位によって角質バリア能が評価できることが確かめられた。この表皮電位計測技術を活かして、機械刺激と光刺激の影響を定量評価することが出来た。皮膚サンプル(ブタ皮膚切片)の伸展刺激中の表皮電位変化をモニタした結果、表皮電位が一過的に減少するという機械刺激に対する表皮電位応答の観察に成功した。電位変化は表皮で局所的に発生していることが確認でき、表皮の刺激検知メカニズムなどとの関連が示唆された。光刺激の効果についてもLED照射中の表皮電位計測によって検討を進めた。赤色の照射が皮膚バリア機能の治癒を促進するとの報告があり、美容器具に応用されてきたが、今回の実験により、赤色光刺激による表皮電位変化を初めて観察し、刺激条件による治癒効果の違いなどを定量化し、治療デバイス開発に寄与する新たな知見を得ることが出来た。
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