研究課題/領域番号 |
18K19897
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
船本 健一 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (70451630)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 細胞・組織 / 生物・生体工学 / 流体工学 / ナノバイオ / マイクロ流体デバイス / 胎盤 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
申請者独自のヒト胎盤チップ(Placenta-on-a-chip)内でヒト胎盤の微小環境を模擬する方法と、栄養状態や酸素状態を制御して細胞群の挙動と相互作用を調べる実験方法について改良を重ねた。チップ内には、3本の隣接する平行なゲル流路①,②,③とそれらを挟むようにして細胞培養液を供給する2本のメディア流路があり、さらにメディア流路の上方にはチップ内の酸素濃度を制御するため、酸素濃度を調整した混合ガスを供給するガス流路が2本ある。ゲル流路①側を母体側とし、それに接するメディア流路内で細胞性栄養膜細胞のモデルとしてヒト絨毛がん細胞(JEG-3)を培養して流路全体を覆うような栄養膜を形成し、さらにヒト絨毛がん細胞同士を融合させて多核化した合胞体性栄養膜を形成した。また、ゲル流路③側を胎児側とし、そのゲル流路内にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)と正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)をフィブリンゲルに混合して配置して培養することで微小血管網を構築した。隣接するメディア流路にもHUVECを培養して血管内皮細胞の単層を形成し、ゲル流路内の微小血管網に接続させて微小血管網を灌流可能な状態にした。本年度は特に、合胞体性栄養膜と灌流可能な微小血管網の形成を効率良く行うための培養方法について詳細な検討を行い、最適化を図った。また、ガス流路に混合ガスを供給して酸素濃度を制御し、各メディア流路に注入した蛍光標識デキストランが合胞体性栄養膜または微小血管網を透過して拡散する様子を蛍光顕微鏡により観察し、微小血管網の物質透過率を計測した。その結果、特に、低酸素環境下では、微小血管網の物質透過性が増す傾向が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ヒト胎盤チップ内で実際のヒト胎盤の構造をより忠実に模擬し、周囲の酸素濃度を制御しながらチップ内に形成した合胞体性栄養膜や微小血管網の物質透過性の評価が可能になった。研究に必要不可欠な個々の要素技術が確立されたが、目標であるヒト胎盤の形成機序と機能維持機構の解明のためには、様々な実験条件(栄養状態や酸素状態)でヒト胎盤を構成する細胞群の挙動や機能を評価する実験を繰り返す必要がある。今年度は特に、新型コロナウイルス感染症対策のため実験を中断せざるを得ない期間があり、研究の進捗が遅れたため、今後、より集中的に取り組むことで研究を加速させる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに獲得したヒト胎盤チップを用いた細胞実験技術を用い、引き続き様々な実験条件において細胞群の形態や動態、相互作用の変化を調べ、ヒト胎盤の形成機序と機能維持機構について考察する。一様な酸素状態や母体側と胎児側の酸素濃度の差異を模擬した酸素濃度勾配下、母体側の酸素濃度の低下、細胞培養液中の栄養成分(グルコース,有機酸,乳酸など)の減少、細胞培養液の還流速度の減少を与えて母体の健康状態の変化を模擬する。それら各条件下における細胞の様子を顕微鏡観察することで形態と動態を定量評価し、メディア流路に注入する蛍光標識デキストランの拡散の様子に基づいて合胞体性栄養膜と微小血管網の物質透過性を評価する。実験後に細胞を固定して免疫蛍光染色を行ったり、ウェスタンブロッティングによる解析を行ったりすることで、低酸素・低栄養・低血流によるヒト胎盤内微小環境の形態と物質透過性の変化に関与する細胞内タンパク質の変化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動に伴う実験室の移動と新型コロナウイルス感染症対策のために実験の中断を余儀なくされる期間があり、研究の進捗が遅れたことから補助事業期間の延長を申請した。次年度、細胞実験に継続して取り組むための物品費として助成金を使用する。
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