研究課題/領域番号 |
18K19899
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
熊田 博明 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (30354913)
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研究分担者 |
高田 健太 群馬県立県民健康科学大学, 診療放射線学部, 准教授 (10640782)
佐藤 達彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (30354707)
古田 琢哉 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (40604575)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 放射線治療技術学 / ホウ素中性子捕捉療法 / 治療計画 / モンテカルロ法 / 連続四面体法 / 線量評価 / メニーコア / 並列計算 |
研究実績の概要 |
放射線治療における治療計画立案作業では、人体モデルの病巣部周辺に付与される線量分布を数分以内の短時間で算出する必要がある。さらに、より高精度な線量計算が可能で、かつ、2次中性子等の副次的影響も評価可能なフル・モンテカルロ法(以下、FMC法)による線量計算に基づく治療計画立案が求められている。しかし現状の技術では、FMC法は通常の100並列程度の並列計算機を組み合わせても計算に長時間(数十分~)を要するため、医療現場に実用化できていない。これを踏まえ本研究は、人体モデルに対してFMC法による高精度線量計算を1分程度で完了する超高速計算技術の開発を目指す。この研究目標を達成する方法として、まず、①複雑な人体形状の計算モデルのモデリング法として従来のボクセル法にかけて、多数の四面体を組み合わせてモデリングする手法:四面体法を治療計画に実用化することを検討する。もう1つの方法として、②数千規模のコプロセッサ(Manyコアプロセッサ)を用いた超並列計算によって高速化を行う。 まず①の四面体計算モデルの実用化に向けた活動としては、平成30年度は共通の体系に対して従来のボクセル法と四面体法でそれぞれモデリングして、計算速度の評価を行った。単純な円筒、及び、直方体形状の水ファントム体系に対して両モデリング法で計算速度を比較した結果、四面体法での計算時間は、ボクセル法に対して、約60%の時間で計算を完了でき、約1.7倍計算速度を早くできることを確認した。 ②のManyコアプロセッサでの計算としては、筑波大学が有する超並列計算環境:OakForest-PACS(CPUはXeonPhi)で、1ノード当たり256のコプロセッサのCPUを32並列化し、8,192並列でモンテカルロ計算を実行できる環境を構築した。 これらの研究成果を発表するため、日本医学物理学会の学術大会(2019年4月)に申請した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
四面体法による人体モデルの線量計算に関する研究においては、平成30年度は人体モデルの計算体系を四面体法でモデリングする手法と手順を構築し、従来のボクセル法との比較を行うことを計画していた。この計画に対して実際の研究では、複数のソフトウェアを組み合わせることによって四面体法でのモデリングの手法と手順を構築することができた。そして円筒形状と直方体形状の水ファントムモデルをボクセル法と四面体法でそれぞれ構築し、双方の計算を実行して、計算速度の比較検証を実施するところまで実施できた。 もう1つの研究テーマであるManyコアプロセッサでの超並列計算においても、筑波大学のOakForest-PACSを用いて並列計算を実行できる環境を構築すること平成30年度の目標として設定していた。この目標に対して実際にはOakForest-PACSにツクバプランのモンテカルロ計算コードであるPHITSをインストールし、8,192コア(256コプロセッサ×32ノード)での並列計算を実行できる環境を構築した。これらの活動により当初掲げていた2つの研究テーマの目標は、それぞれほぼ達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
人体モデルに対する四面体法によるモンテカルロ計算のテーマについては、頭部ファントムなど、形状が複雑でよりリアルな人体形状のモデルに対して四面体法でモデリングし、従来のボクセル法との計算性能の比較を行う。また、現状の手順では、自動的に四面体法でのモデルを作成することは困難であり、人が介在して計算を実行できるインプットを作るように手作業で修正しなければならない。そこでどのような条件下で手作業を行うことになるのかの条件を抽出し、人による修正作業を加えずに自動的に四面体モデルを構築できるアルゴリズムの検討を行う。また、四面体法でモデリングする場合でも、四面体の大きさによって境界面数が異なる。この境界面数の数によって計算速度と計算精度のトレードオフとなる可能性があるため、実際の治療計画作業を行う上での適切な計算速度と精度のバランスを解析し、最適な四面体モデリングの方法を模索する。 並列計算においては、平成31年度は筑波大学のOakForest-PACSで最大で128ノード、32,768コア(128ノード×256コプロセッサ)の並列環境を確保することができた。よってこの並列環境を使って、当人体モデルのモンテカルロ計算を数万コア並列実行できるかどうかの検証を行う。そしてこの並列環境で計算速度がどこまで高速化できるのかを検証する。また、OakForest-PACSは外部からの計算実行も可能であるため、研究分担者によって筑波大学以外の実行環境から計算を実行できるかどうかの試験を行う。 平成30年度の成果については2019年4月に開催される日本医学物理学会学術大会(横浜)で発表を行い、関連する研究者との情報交換を行う。また、フル・モンテカルロを高速化するための新しい手法、アルゴリズムを導くことができた場合は速やかに特許出願も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では並列計算機として筑波大学のOakForest-PACSを有償で利用することを想定し、その使用料を計上していた。しかし学内公募に申請したところマシンタイムは限られていたが、無償で計算機を利用することができたため、その費用を平成31年度の活動に回すことができた。これにより当初の予算執行計画との差異が生じた。
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