研究課題
脳には多様な機能が局在したささまざまな領域が存在するが、複数の領域が情報を統合的に処理する機構はほとんど不明である。これまでにヒトの脳の活動を計測することなどによって脳の働きのしくみを理解する試みが多くなされ、脳波として広範囲に観測される周期的な神経活動や、大脳半球間で互いに抑制し合う仕組みなどが脳の統合的な働きに重要であることが示されているが、試験管内で複数の大脳領域を模した構造を接続した神経ネットワークを構築し、その活動パターンを再現しようとする試みはほとんど行われていなかった。そこで、試験管内で三次元状の神経ネットワークを作成して大脳の自律的な活動調節を再現することを目指して研究を行なってきた。平成30年度には、人工大脳組織をヒトiPS細胞から作り、それぞれから自発的に軸索を伸ばさせ、つなぎ合わせることによって巨視的な人工神経ネットワーク作る手法を開発した。L1CAM遺伝子をRNAiによって発現抑制すると軸索が束状組織を形成する効率が下がったことから、脳梁欠損症のモデル組織となりうることが示唆された。片側の大脳組織を電気的に刺激すると軸索を活動電位が伝わり、もう片側の大脳組織が応答する様子が見られた。興味深いことに、活動電位の発生は刺激された側に比べ、軸索束によって接続された側で少し遅れることがわかった。さらに、ヒトiPS細胞から作る人工大脳組織をより詳細に制御するための、新しい光応答性物質を作成することができた。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度には、予定通り大脳組織間を軸索束状組織で接続した組織を作成することができた。これらの成果は論文としてまとめ、iScience誌に掲載された。また、予定通り新しい光応答性物質を作成することができた。
今年度は、昨年度作成方法を確立した組織のより詳細な解析を行う。特に、電気刺激とその応答を詳細に解析し、神経活動のパターンとその機構について解析を行う。
神経組織の電気活動計測に必要な機器や消耗品類を本年度購入することが見込まれたため。
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iScience
巻: 14 ページ: 301-311
10.1016/j.isci.2019.03.012