近年、多能性幹細胞を三次元培養で分化することによって、臓器に似た内部構造を持った組織(オルガノイド)を作る研究が盛んに行われており、脳にも応用されている。しかし脳は一般的な臓器と成り立ちが本質的に異なり、臓器内の部位ごとに機能が異なる上に、部位間で巨視的につながって連絡し合うことで初めて正常に機能することができるため、通常のオルガノイドによる模倣には限界がある。ある入力情報を脳内の複数の領域で段階的に処理する場合には、それぞれの領域内部の局所的な神経回路で処理された情報が、軸索を介して領域間を伝わることが必須である。一方で、これまでの方法でオルガノイドを作製しても脳内の局所的な部位しか真似できず、巨視的ネットワークを再現できないので、脳全体の機能を模倣できない。オルガノイドを二つ密着して結合させるアセンブロイドも報告されているが、二つのオルガノイドの境界はあいまいになり、融合してしまう上、三つ以上のオルガノイドを思う様に配置させて結合することも難しいため、巨視的な回路を作り出すのには適さない。そこで申請者は2つ以上の大脳オルガノイドから互いに軸索を伸ばし、接続させてごくシンプルな巨視的な大脳神経回路ユニットを作製する手法を開発した。この方法は、局所的な回路と巨視的な回路の両方を組織内に持つことが特徴であり、脳内の神経回路のモデルを作るのに適した手法である。この手法によって作製した大脳オルガノイド回路の神経活動パターンは複雑であり、幅広い周波数帯で周期的な活動と非周期的な活動を観測することができた。
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