研究課題
近年、コレステロール、生合成中間体、オキシステロールなどの代謝物が細胞の炎症応答に関与することが報告されており、ステロール類と免疫系のクロストークが注目されている。また、Toll-like receptor(TLR)を介した刺激の伝達には細胞膜中のコレステロールに富んだ脂質ラフトへの局在が生じることなどから考えると、細胞内のコレステロールは炎症応答の制御において重要な役割を担っていると言える。本研究課題では細胞内のコレステロールに作用する細胞内分解性ポリロタキサンを用いて、コレステロールへの作用が炎症応答に及ぼす影響を明らかにするとともに急性肝炎の治療への応用を検討する。前年度までの研究において、TLR4により認識されるリポ多糖(LPS)を腹腔内に投与することで肝炎モデルマウスを作成し、ポリロタキサンを用いて肝炎への影響を評価した。その結果、ポリロタキサンによる細胞内コレステロールへの作用が炎症性サイトカインの発現を抑制し、肝炎の発症を抑えることを明らかにしている。2020年度は、ポリロタキサンによる炎症応答抑制作用に関して作用機序を検討した。CpG ODNやpoly(I:C)による炎症応答に対するポリロタキサンの効果を評価した結果、ポリロタキサンはLPS以外の刺激に対しても炎症性サイトカインの遺伝子発現、転写因子NF-κBの核移行を抑制する作用を示した。しかしながら、TLR3を介した刺激についてはポリロタキサンは炎症応答を抑制する効果を示さないことを明らかにした。以上の結果より、ポリロタキサンによる炎症応答抑制作用はNF-κBの上流への作用によるものと予想される。
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