研究課題
本研究の目的は、1.収差補正が出来る次世代2光子レーザー顕微鏡を用いて血管・リンパ管新生を観測し、2.従来の顕微鏡では捉えられなかった病的血管とリンパ管の交通を見出し、3.がん転移に関する既存の理論に挑戦することを目指すことである。本研究を通じて、本質的な医工学の学術基盤を創出することを目標としている。平成30年度、本研究では次世代2光子レーザー顕微鏡の医学へ応用するために、空間光変調器を装備した2光子レーザー顕微鏡で組織を観察し始めた。この顕微鏡は、蛍光波長が異なる複数の蛍光物質を時空間的に検出することが出来る。本研究で、血管とリンパ管を異なる蛍光物質で標識し、血管-リンパ管の交通を明らかにするためには、異なる蛍光物質の局在が同一であることを示す必要がある。そこで蛍光物質の特性評価を行い、各蛍光物質に特異的なフィルターを顕微鏡に装着することを目的として、蛍光色素の特性を評価した。本研究では、リンパ管特異的にenhanced green fluorescent protein (EGFP)を発現するトランスジェニック・マウス Prox1-EGFP TGマウスを用いる。さらに、このマウスにK14-VEGF TGを交配することにより、皮膚や舌にVEGFを過剰発現し、リンパ管を可視化できるProx1-EGFP/K14-VEGF TGマウスを作成した。このマウスに対して、蛍光色素で標識されたIsolectin B4を静脈内投与すると、Isolectin B4によって血管内皮細胞が標識されるとともに、リンパ管の内腔に局在するリンパ管内皮細胞の細胞膜が蛍光標識された。この結果は、過剰なVEGFによって血管-リンパ管吻合が生じることを示すとともに、次世代2光子レーザー顕微鏡は、1細胞における蛍光シグナルを部位特異的に検出できることを示すものである。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、収差補正が出来る次世代2光子レーザー顕微鏡を用いて血管・リンパ管新生を観測することを第一の目標とした。平成30年度、空間光変調器を装備した次世代2光子レーザー顕微鏡を応用し、マウス組織を観察し始めた。この顕微鏡は、蛍光波長が異なる複数の蛍光物質を時空間的に検出することが出来る。そこで、吸収波長が異なる二つの蛍光色素(あるいは蛍光蛋白)を、この顕微鏡で観測したところ、それぞれの蛍光を組織内で特異的に観測することが出来た。従って、本研究の第一の目標は達成されたと考えている。本研究の第二の目標は、血管とリンパ管を異なる蛍光物質で標識し、血管-リンパ管の交通を明らかにすることである。この目標を実現するためには、互いに異なる二つの蛍光物質の局在が同一であることを示す必要がある。そこで蛍光物質の特性評価を行い、各蛍光物質に特異的なフィルターを顕微鏡に装着することを目的として、蛍光色素の特性を評価した。この結果、二つの蛍光物質を特異的に検出することが出来た。従って、本研究の第二の目標も達成出来たと考えている。本研究では、リンパ管特異的にenhanced green fluorescent protein (EGFP)を発現するトランスジェニック・マウス Prox1-EGFP TGマウスに、EGFPとは異なる蛍光色素で標識されたIsolectin B4を静脈内投与し、収差補正が出来る次世代2光子レーザー顕微鏡を用いて観測した。リンパ管内の内腔に局在するEGFP陽性の内皮細胞がIsolectin B4によって標識されたことは、組織内に血管-リンパ管吻合が存在することを示唆するものである。従って、この成果は本研究の第二の目標が実現されたことを支持するものであると考える。
今後は、生体表面で脈管を観測する発癌モデルに着手し、がん組織における血管-リンパ管吻合を観測することを目標として取り組む予定である。がん組織では、vascular endothelial growth factor (VEGF)-Aが豊富に産生される。VEGF-Aは、がん組織で血管新生を誘導することが知られている。また、本研究者らは、以前マウスがん組織を分析し、過剰に産生されるVEGF-Aによってリンパ管新生が促進されることを見いだした。そこで本年度は空間光変調器を装備した次世代2光子レーザー顕微鏡を用いてProx1-EGFP TGマウスの組織を観測し、がん組織における血管・リンパ管新生の脈管形成や血管-リンパ管吻合の存在を明らかにしていく予定である。がん組織における血管・リンパ管の走行は、がん転移の進行を理解する上で重要であり、マウスの実験モデルにおいて、血管-リンパ管吻合が存在することを明らかにすることは、がんの臨床にも本研究の成果が波及する可能性があり、重要な取り組みではないかと考える。
平成30年度、本研究を実施するにあたり遺伝子改変マウス(Prox1-EGFPトランスジェニックマウス、K14-VEGFトランスジェニックマウス)を使用した。このマウスは、既に研究室で飼育・維持していたため、購入費などを要することなく研究を実施することが出来た。また、蛍光色素についても既に研究室で購入していた試薬を使用し、実験を行ったため、多数の試薬を購入することなく実験することが出来た。この実験により平成30年度に研究成果が得られ、本年度の研究基盤を得ることが出来た。本年度は、この研究基盤に立脚し、マウスがん組織における血管・リンパ管の観測に取り組む予定である。この研究計画を実現するためには、発癌・転移に適するマウスの系統などを選択して購入する必要がある。この研究経費を捻出し、研究を滞りなく実施するために次年度使用額が生じた。本年度の使用計画は、発癌・転移に適したマウスのbackgroundや遺伝子改変マウスを選択することに研究費の一部を当てて、研究を実施するにあたり、安全で研究経過を実現可能なマウスを選択する予定である。このマウスを選択することを今年度の研究計画の第一の目標とし、もし適切なマウスを選択出来れば、がん組織における血管・リンパ管の形成及び血管-リンパ管吻合の存在を観測していく予定である。
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新薬と臨床
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クリニックマガジン
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10.1016/j.reth.2018.12.001.