研究実績の概要 |
本研究の目的は,生体構造や治療行為に関する事前知識を活用し,治療時に取得可能な低次元かつ局所的な情報のみを手がかりに,患者固有の生体臓器に関する高次元かつ広範囲の状態復元を目指す情報学的手法の探究である.本年度は,膵がんに対する放射線治療を受けた124人の患者の3次元CTデータと35人の4D-CT(3次元+時系列)データを対象に可変形メッシュ位置合わせ法を適用し,腹部5臓器の統計的変位モデルを構築した.統計的変位モデルは生体臓器の3次元形状と変形をより低次元の画像特徴などから推定する目的において事前知識,生体臓器データベースとして利用可能である.また,昨年度構築した2次元画像から3次元形状を推定するImage-to-Graph Convolutional Network(IGCN)に投影変位マップの枠組みを導入し,形状推定性能の改善を行った.推定対象の臓器の3次元変位を複数の2次元空間にマッピングし,学習に用いることによって入力画像の深層特徴と3次元形状モデルの頂点変位間の関係を安定に学習可能とした.開発した統計的変位モデルとIGCNを用い,患者個人の1枚の2次元X線画像のみから,呼吸に伴う肝臓の3次元形状及び変形を推定する実験を実施し,平均形状間距離3.6mm, ダイス係数 0.915 の推定が可能であることを確認した.また,2次元X線画像では検出されない膵がんの呼吸性変位を推定可能な周辺臓器の形状特徴量を同定し,平均形状間距離1.2mm,ハウスドルフ距離 4.2mm の臨床利用可能な精度で推定が可能であることを確認した.
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