研究課題/領域番号 |
18K19928
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石川 邦夫 九州大学, 歯学研究院, 教授 (90202952)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 骨伝導性 / ポリエチレンテレフタレート / 水酸基 / リン酸基 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
本挑戦的研究(萌芽)は、高分子材料に骨伝導性(材料を骨内に埋植した場合に、骨が材料に結合する性質)を付与する研究であり、具体的にはポリエチレンテレフタレートに骨伝導性を付与する研究である。 これまでに、ポリエチレンテレフタレート表面のケトン基を還元して水酸基を形成し、さらに水酸基をリン酸化する手法によってリン酸基修飾ポリエチレンテレフタレートが調製できることを確認したが、ラット大腿骨から採取した骨髄細胞懸濁液を用いた検討ではリン酸基修飾の効果は十分に確認できなかった。 令和2年度は、ポリエチレンテレフタレート表面の水酸基形成をアルカリ処理に変更し、その後、これまでと同様の手法でリン酸基修飾することとした。アルカリ処理により水酸基を形成後、リン酸基修飾によりリン酸基が修飾されたことをX線光電子分光法により確認した。 次にラット大腿骨より採取した骨髄細胞をリン酸基修飾ポリエチレンテレフタレート上で骨芽細胞に分化し、アルカリホスタファーゼ活性および骨様結節形成評価を行なった。対照群は未処理および水酸基形成ポリエチレンテレフタレートとした。リン酸基修飾により未処理の対照群よりアルカリホスファターゼ活性が約2倍向上した一方で、水酸基形成したポリエチレンテレフタレートはリン酸基修飾よりもさらに高いアルカリホスファターゼ活性が認められた。また、骨様結節形成評価においても未処理よりもリン酸基修飾ポリエチレンテレフタレートが形成量は多いものの、水酸基形成したポリエチレンテレフタレートの方が形成量は多くなることが判明した。 細胞での検討を踏まえ、日本白色兎脛骨に1 mm x 10 mmの骨欠損を作製して試料を埋入し、埋入8週後の引き剥がし強度を測定したところ水酸基形成、リン酸基修飾したポリエチレンテレフタレートのいずれにおいても未処理の場合よりも引き剥がし強度が高くなることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究者は、脊椎ケージとして臨床応用されているポリエーテルエーテルケトン表面をリン酸基修飾すると、骨伝導性を示さないポリエーテルエーテルケトンに骨伝導性が付与されることを見出している。本挑戦的研究(萌芽)においては、人工腱などで臨床応用されているポリエチレンテレフタレートへの骨伝導性の付与を検討してきたが、骨芽細胞による骨伝導性評価でデータのバラツキが大きくリン酸基修飾の効果が十分には確認できなかった。これまでは水素化ホウ素ナトリウムによりポリエチレンテレフタレートの水酸基形成を行なっていたが、水素化ホウ素ナトリウムでは還元反応が限定的であると考え、水酸基形成の工程をアルカリ処理に変更したところ、リン酸基修飾ポリエチレンテレフタレート表面で骨芽細胞が活性化することだけでなく、水酸基形成ポリエチレンテレフタレートではリン酸基修飾ポリエチレンテレフタレートよりも骨芽細胞活性が向上することが示された。また、動物実験においてもポリエチレンテレフタレートの骨伝導性発現が確認されたことから、予定通りに進捗していると言える。 ポリエーテルエーテルケトンと異なりポリエチレンテレフタレートではリン酸基修飾だけでなく水酸基形成したポリエチレンテレフタレートにおいても良好な骨伝導性を示し、さらに骨芽細胞活性はリン酸基修飾ポリエチレンテレフタレートよりも高いことが示されたが、そのメカニズムは明らかではない。水酸基形成量を最適化することでその物性と骨芽細胞の活性化との関連性を調べることで、骨伝導性発現のメカニズムを解明する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに水酸基形成したポリエチレンテレフタレートおよびリン酸基修飾したポリエチレンテレフタレートで骨伝導性が発現することを示した。 令和3年度はアルカリ処理の条件を検討することで水酸基形成量を制御し、水接触角、表面性状等の物性を評価し、それらの物性と骨芽細胞の活性との関連性を細胞実験により検討することで、ポリエチレンテレフタレートの骨伝導性発現のメカニズムを解明する。 また、細胞実験において最適化された条件で調製したポリエチレンテレフタレートをうさぎ脛骨に埋入し、引き剥し試験による骨結合性評価および病理組織学的検索により骨伝導性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の発生に伴い、研究活動、学外者のキャンパス訪問、出張の可否、施設閉鎖(動物実験施設を含む)在宅勤務、ローテーションによる在学勤務者制限を含む行動指針を作成し、年度当初から動物実験関連の実施が困難な状況となった。 次年度以降に、動物実験関係の検討を実施する。
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