iPS細胞のような未分化細胞を介さずに、すでに分化した細胞を別の種類の細胞に直接変換する「ダイレクトリプログラミング」が、再生医療のための新しい革新的技術として注目されている。本研究では、転写因子の遺伝子導入ではなく、転写因子を低分子化合物で制御するダイレクトリプログラミングを提案する。転写因子を制御する低分子化合物を同定し、細胞運命転換を低分子化合物で行うダイレクトリプログラミングを支援するためのインシリコ手法を開発するのが目的である。 令和元年度は、引き続き、細胞分化誘導に関与する転写因子や低分子化合物のオミックスデータを整備し、更新した。新たに、細胞分化誘導に関与するパスウェイのデータを整備した。過去に転換の成功が報告されている既知の細胞転換パターンについても、文献から約70種類の細胞転換をデータとして整備した。次に、ゲノム情報、エピゲノム情報、トランスクリプトーム情報、化学構造情報、パスウェイ情報を融合解析し、細胞分化誘導する転写因子と低分子化合物を予測する手法を開発した。クロスバリデーション実験を行い、シミュレーションでの予測精度で、既存手法を上回ることを確認した。提案手法をヒトゲノムにコードされている約千個の転写因子に対して適用し、分化誘導する低分子化合物を大規模推定した。例えば、皮膚線維芽細胞から肝細胞への変換に関与すると予測された転写因子や低分子化合物の詳細について生物学的な考察を行なった。元細胞から目的細胞に変換される際の細胞状態を表す遺伝子発現データを実験的に測定して解析し、妥当性を検証した。
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