本研究の目的・課題を以下に記す:(1)SELEX法により新たに選択されたヒスタミンアプタマーを用いて、無細胞翻訳系において、ヒスタミンに応答するRNA遺伝子スイッチ(リボスイッチ)を設計する。(2)同リボスイッチをリポソームに内包し、ヒスタミンに応答する人工細胞を作成する。(3)培養細胞により放出されるヒスタミンに応答する人工細胞を作成する。
[最終年度] 前年度までに、ヒスタミンリボスイッチをリポソームに内包し、外部から加えたヒスタミンに応答して、様々なタンパク質を発現する人工細胞を構築した。しかしながら、使われたリボスイッチは応答に高濃度(mMレベル)のヒスタミンを必要とし、無細胞翻訳系で既存アプタマーからリボスイッチを設計するプロセスが非効率的であるという課題が明らかになった。最終年度では、無細胞翻訳系で機能するリボスイッチの設計法に立ち返り、微小流路系を用いた高スループット無細胞リボスイッチスクリーニング系の開発を目指した。様々な方法を試し、ヒスタミンその他の化合物に応答する無細胞系リボスイッチの取得に成功した。
[研究期間全体を通じて] 3年間の研究を通じ、当初の目的のうち(1)と(2)を達成した。無細胞系でアプタマー選択からリボスイッチを開発し、人工細胞に組み込むことまでを実証し、リボスイッチが人工細胞の化学センサーとして機能することを示した。また、ヒスタミンという化学シグナルに応答する人工細胞を構築し、「インテリジェントな人工細胞」のモデルとして意義ある成果が得られた。(3)の生細胞から放出されるヒスタミンに応答させる、という目標は、人工細胞の安定性の問題から深く追求できなかったが、人工細胞と培養細胞の共存も報告されてきており、今後の展開として視野に入れている。
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