研究課題/領域番号 |
18K19946
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 淳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (60360608)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | メカノバイオロジー / 伸縮 / ハイドロゲル / 細胞骨格 / 接着斑 / 光異性化 |
研究実績の概要 |
血管内皮や尿管を構成する細胞は絶えず伸縮刺激を受けることでその機能が調節されているが,細胞は細胞骨格,接着斑等,さまざまな階層で力学刺激を感受するため,そのうちのどれが主要因子なのかは明らかになっていない。本研究では細胞に対して様々な階層で力学刺激を付与できる新奇細胞伸縮デバイスを開発する。具体的には,光応答的に膨潤・伸縮するハイドロゲルを基にしたデバイスを作成し,そこに与える光刺激の範囲をコントロールすることで,細胞に与える伸展刺激の階層性を変化させるという方法を確立することをめざす。本年度は,上記研究で中心的な役割を果たす光応答ハイドロゲルの開発とその組成と応答性の関係の調査と,伸展刺激を与えるための細胞材料の開発に取り組んだ。 UV/可視光に応じて光異性化するアゾベンゼンを側鎖に有するアクリル酸エステル(AzoA)とジアルキルアクリルアミドを適当濃度で混合後重合し,そこから共重合体(線形高分子)を得た。その後に,この線形高分子をビス(アクリルアミド)で架橋してハイドロゲルを作製した。この際,ジアクリルアミドおよび架橋剤の疎水性を検討し,ゲルの形成の可否,光照射前後での膨潤率変化およびその可逆性への影響を調べ,最も大きな膨潤率変化を示す組成を探した。その中から,最大で20%弱の膨潤率変化を示す組成が見つかった。現時点では当初に目標としていた30%の変化には到達していないものの,全体的な傾向として,モノマーは親水性のもの方が,架橋剤は疎水性のものの方が大きな変化を示すことが分かり,今後の設計にも重要な指針が得られた。 また,階層性を変化させた力学刺激に対する細胞応答を検証するために,接着斑タンパク質であるPaxillinのmCherry標識物と細胞骨格タンパク質Actinに結合性のLifeActのGFP融合蛋白質を恒常的に発現したMDCK細胞を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇伸縮デバイスの肝となる光応答ゲルを作製することができた。当初目標としていた30%の体積変化にはまだ届いていないものの,組成との関係が分かってきているので,2年度のさらなる検討で目標に達するものと思える。また,翌年度に実際の伸縮刺激を与え,その解析を行うための細胞材料の作製も首尾よく進んだ。以上より,当初の計画通りに概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度開発した光応答ゲルをさらに改良した上で,マイクロポスト構造体を作成する。この表面に細胞接着性リガンドを固定化した上で,その上に蛍光標識ActinやPaxillinを恒常発現させた細胞を付着培養する。その上で,光刺激の領域を変化させた際のこれらの細胞の応答を解析し,多階層で力学刺激を与えるデバイスとしてのバリデーションを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
光応答材料についてはまだ最適化の必要があるために,第二年次にその完成を待ってから本格的な細胞伸縮実験を行うため,予算執行が2年度にずれ込んだ。一方で,当初の予定よりも早く解析用の恒常発現株の樹立が終わったため,総じての研究の進捗に支障はない。
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