血管内皮や尿管を構成する細胞は絶えず伸縮刺激を受けることでその機能が調節されているが,細胞は細胞骨格,接着斑等,さまざまな階層で力学刺激を感受するため,そのうちのどれが主要因子なのかは明らかになっていない。本研究では細胞に対して様々な階層で力学刺激を付与できる新奇細胞伸縮デバイスを開発する。具体的には,光応答的に膨潤・伸縮するハイドロゲルを基にしたデバイスを作成し,そこに与える光刺激の範囲をコントロールすることで,細胞に与える伸展刺激の階層性を変化させるという方法を確立することをめざす。本年度は,昨年度に取得した光応答ゲルの予備的知見を踏まえ,そのさらなる改良を進めるとともに,同基材の上に付着させた細胞に伸縮刺激を与え,観察するための諸検討を行った。 光異性化する性質のアゾベンゼンを側鎖に含むアクリレート(AzoA)とジメチルアクリルアミド(DMA)の共重合体において,UV照射前後での相転移挙動を調べたところ,アゾベンゼン導入量が少ない方が曇天の変化が大きく,且つその温度が高くなることが分かった。さらに,この共重合体をエチレングリコールジメタクリレートで架橋して作製したハイドロゲルはUV/可視光照射に応じて膨潤・収縮し,しかもその応答が可逆的であることを確認し,所望の材料を得ることができた。次にゲルの表面にコラーゲンを修飾することで,ゲル上で蛍光標識した細胞を接着させることができるようになった。ただ,ゲル上に付着した細胞応答を蛍光観察する上で,アゾベンゼンによる吸収が妨げとなり,通常の倒立観察ではほとんどシグナルが得られないという問題に直面した。そこで,この問題を解決するために,正立顕微鏡における観察系ならびに,自在なパターン化照射系を開発した。以上により,多階層伸縮デバイスの開発という当初の目的は達成することができ,現在その応用に着手しているところである。
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