2019年度は、細胞の形状、接着面積、伸展面積、キラリティー(巻の向きと巻角度)、および細胞密度が外部遺伝子の導入効率に与える影響を調べた。まず、2018年度で確立した方法で、面積一定で幾何学的形状の異なるマイクロパターン、細胞の接着面積と伸展面積を個別に制御できるマイクロパターン、細胞密度を制御できるマイクロパターン、および面積一定でキラリティーが異なるマイクロパターンをもつ材料を作製し、マイクロパターンの形成を原子力顕微鏡で確認した。次に、マイクロパターンをフィロネクチンでコーティングすることにより、単一のパターン領域内に単一の細胞を接着させることができた。培養した細胞のアクチンフィラメント骨格を蛍光標識ファロイジンで染色した。その結果、異なる幾何学形状をもつ細胞の周縁部ではストレスファイバーが形成されたが、中央部ではファイバーの形成が妨げられた。細胞接着面積、細胞の巻角度は細胞骨格に大きな影響を与えることが分かった。他方、細胞の形状、細胞の伸展面積および細胞の巻の向きは細胞骨格にあまり影響しなかった。また、細胞の接着面積、細胞の巻角度、および細胞密度は、細胞のヤング率、マイクロ粒子の細胞への取り込み、DNA合成活性に影響を与えたが、細胞の形状、細胞の伸展面積、細胞の巻の向きはこれらに影響しなかった。さらに、マイクロパターン化した細胞に、緑色蛍光タンパク質GFP遺伝子をコードしたプラスミドDNAをリポフェクションした。その結果、細胞の接着面積、細胞の巻角度および細胞密度は、遺伝子導入効率に影響を与えたが、細胞の形状、伸展面積とマイクロパターンの細胞の巻の向きは遺伝子導入効率に影響しなかった。マイクロパターンによる細胞の遺伝子導入効率への影響は、細胞骨格の集合状態の変化、およびそれに起因する細胞内の力学的環境の変化とDNA合成活性によると考えられる。
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