研究実績の概要 |
萎縮型加齢黄斑変性症は、加齢とともに深刻な視力の低下を引き起こす疾患であり、黄斑部に網膜色素上皮から脈絡毛細血管板にかけて地図状萎縮病巣が形成され、現在有効な治療法はない。近年萎縮型加齢黄斑変性症においてmiRNAを処理する酵素であるDICER1が減少していると、網膜色素上皮細胞においてレトロトランスポゾンの一種であるAluの蓄積を誘導し、網膜色素上皮細胞の変性を引き起こすことが報告された。初年度では、筑波大学内に独立した研究室・先端視覚医学講座をスタートさせ、レトロトランスポゾン蓄積の原因であるDICER1に着目し、3種類の独立したDICER1が減少しているマウスモデルを用いて、網膜色素上皮細胞が変性する事、脈絡膜血管新生を誘導する事を明らかにしPNAS誌に報告した(Wright CB, PNAS 2020)。DICER1の減少およびAlu RNAの蓄積が眼の疾患だけでなく糖尿病でも起き、逆転写酵素阻害薬NRTIが抗炎症作用を持ち、糖尿病の治療に有用な可能性がある事を明らかにし、Nature Communications誌に報告した(Ambati J, PNAS 2020)。さらに、老化と非常に似たメカニズムでAlu RNAが萎縮型加齢黄斑変性症患者の網膜色素上皮内に蓄積し,逆転写され一本鎖のAlu cDNAが生成され,網膜色素上皮細胞死を誘導することを明らかにし、筆頭著者としてPNAS誌およびScience Advances誌に報告した(Fukuda S, PNAS 2021; FukudaS Sci Adv 2021)。NRTIの抗炎症作用がアミロイドβによる網膜色素上皮細胞死にも有用であることをSignal Transduct Target Ther誌に報告した(Narendran S, Signal Transduct Target Ther 2021)。
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