研究課題
真核生物細胞の生命活動を担うオルガネラなどの様々な細胞内微細構造は、光学顕微鏡の解像度よりもはるかに細かい内部構造を持つ。近年の超解像顕微鏡法の開発により、これらの内部構造が生きた細胞で観察できるようになった。その中で立ち遅れているのは、ナノスケールの分子構造変化やその時系列ダイナミクスを生細胞で観察する技術である。本研究の目的は、タンパク質の構造変化を3次元で、生きた細胞の中で観察する超解像顕微鏡法の開発である。本研究では、二つの異なる視軸をもつ偏光光学系とデジタル画像解析によって、蛍光標識されたタンパク質の3次元方向とその時間変化を生きた細胞内で観察する顕微鏡システムを開発する。この顕微鏡を用いて、免疫細胞やガン細胞が持つ、ポドソーム/インベイドポディアと呼ばれる細胞接着装置の形成メカニズムおよび、細胞外マトリクスの3次元形状や粘弾性を細胞内に伝達するメカノセンシング機構を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
2019年7月に産業技術総合研究所(産総研)に入所した。8月半ばに科研費が使えるようになり、研究室整備を開始した。9月から、米国マサチューセッツ州のMarine Biological Laboratoryに残留する、偏光光学顕微鏡を含む研究機材を産総研に搬送するための業者を探す作業を開始した。この機器搬送作業を請け負う専門業者の選定や事務手続きが順調にすすまず、さらにコロナウイルスによる新型肺炎の流行で令和2年3月末日までに完了する予定だった搬送作業は行われず、令和2年度に再度調達を改めて進めることになった。新たに日本で試作する光学顕微鏡については、令和元年度に主要な構成要素となる対物レンズ、カメラ、光学除振台の発注と納品を済ませている(除振台は2020年6月に納入予定)。令和2年度はこれらにレーザー、光学レンズ、ミラー、干渉ミラー等を組み合わせて、多軸観察光学顕微鏡を完成させる予定である。蛍光偏光および偏光光学に関連する共同研究では、令和元年度に4報の共著論文を発表し、4件の国内研究発表(うち3件は招待講演)をおこなった。
令和2年7月31日までに米国から産総研への機器移送を完了する予定で、すでに発注を済ませ、搬送業者の作業待ちである。産総研では新型肺炎の流行にともない令和2年4月と5月は自宅勤務となり、実験室での研究活動が進められなかったが、5月末で緊急事態宣言が解除され、6月には光学除振台が納品されるので、新しい多軸観察光学顕微鏡の試作を順次進めていく予定である。研究推進の要となっている、遺伝子にコードされた分子配向プローブの開発については、共同研究者の主導によって現在論文投稿中であり、この論文の受理にともなってプローブを発現する、様々な細胞やモデル生物の利用が可能となる。この時期としては令和2年内を目指している。この論文以外に、偏光、蛍光偏光顕微鏡を用いた細胞骨格の構築ダイナミクスに関する研究論文は、研究代表者を責任著者とする論文が、令和2年度にすでに受理されたものが1報、現在リビジョンをすすめる論文が1報、論文執筆中が1報あり、令和2年度においても令和元年と同様、4報以上の論文発表成果を目指す。
研究計画書作成当初の計画としては、令和元年度に既存の蛍光偏光顕微鏡システムを産総研において設置し、このシステムを利用して、新たに開発する多光軸観察光学顕微鏡の設計を行う予定であったが、この機器搬送が令和2年度にずれこんだために、新規開発顕微鏡の設計(使用する光学部品の設計や選定なども含む)が遅れ、必要機器の購入手続きも遅れている。令和2年度にこの遅延をとりもどし、年度内に装置を完成させるための光学機器購入を進める予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件)
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