研究課題
真核生物細胞の生命活動を担うオルガネラなどの様々な細胞内微細構造は、光学顕微鏡の解像度よりもはるかに細かい内部構造を持つ。近年の超解像顕微鏡法の開発により、これらの内部構造が生きた細胞で観察できるようになった。その中で立ち遅れているのは、ナノスケールの分子構造変化やその時系列ダイナミクスを生細胞で観察する技術である。本研究の目的は、タンパク質の構造変化を3次元で、生きた細胞の中で観察する超解像顕微鏡法の開発である。本研究では、二つの異なる視軸をもつ偏光光学系とデジタル画像解析によって、蛍光標識されたタンパク質の3次元方向とその時間変化を生きた細胞内で観察する顕微鏡システムを開発する。この顕微鏡を用いて、免疫細胞やガン細胞が持つ、ポドソーム/インベイドポディアと呼ばれる細胞接着装置の形成メカニズムおよび、細胞外マトリクスの3次元形状や粘弾性を細胞内に伝達するメカノセンシング機構を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
令和2年8月に、必要となる顕微鏡関連機器を含む研究機材を米国の旧所属から移設した。この移設以降、本格的に3次元顕微鏡の開発が可能となった。3つの光軸をもつライトシート顕微鏡を設計し、その基本的な光学系を令和2年末までに構築した。観察試料の作成に関してはコロナ禍により海外共同研究の進捗が滞り、予定していた試料作成等の依頼が困難となったため、国内にポドソーム/インベイドポディア関連の研究を進める共同研究者を探し、令和3年2月に研究協力をとりつけた。また、令和3年2月に所属研究所内で顕微鏡公開をおこない、3次元空間のライブ観察が重要となるオルガノイドの形態形成や、小型モデル生物を用いた生理学的な研究テーマで新しい共同研究を開始した。これまでから共同研究を進めている東京医科歯科大学研究グループとの蛍光偏光プローブ開発の論文が令和3年3月にPNAS誌に掲載され、分子配向観察法を用いた研究に特化したプローブが、本格的に利用可能となった。
令和3年に論文が掲載され、様々な応用が可能となった分子配向プローブPOLArISを、東京医科歯科大学研究グループをはじめとする国内共同研究グループと共有することにより、3次元分子配向の時空間解析が必要となる、様々な生体組織やモデル生物内における細胞内微細構造のダイナミクス研究に応用する。3次元顕微鏡については、非回折ビームを用いた薄層照明法の改良や、得られた画像の3次元再構成をおこなう画像処理アルゴリズムの構築、試料の3次元操作法の確立にむけて開発を継続する。
コロナ禍により海外共同研究先との共同研究が予定通りに望めない状況となったため、新規に開発をすすめる光学顕微鏡の応用に適した生体観察試料モデルの確立が遅れることとなった。光学顕微鏡の励起光制御機構、試料ステージ制御機構の最適化および取得画像の3次元再構成アルゴリズムの構築は、実際に試料を観察し、画像を取得してはじめて可能となるが、試料準備の遅延からこれらの開発や、開発と並行しておこなう予定であった機器(空間位相変調器、ピエゾアクチュエイター等)や画像解析ソフトウェア等の選定、購入に遅延が生じた。本年は観察試料調製(細胞ライン、遺伝子改変動物ラインの確立)とともに上記の機器選定と購入を完了し、最終年度内に目的とする光学顕微鏡システム開発を達成する。
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