研究課題/領域番号 |
18K19962
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
谷 知己 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (80332378)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオイメージング / 蛍光顕微鏡 / 1分子観察 / 生体分子構造変化 / 偏光顕微鏡 |
研究実績の概要 |
真核生物細胞の生命活動を担うオルガネラなどの様々な細胞内微細構造は、光学顕微鏡の解像度よりもはるかに細かい内部構造を持つ。近年の超解像顕微鏡法の開発により、これらの内部構造が生きた細胞で観察できるようになった。その中で立ち遅れているのは、ナノスケールの分子構造変化やその時系列ダイナミクスを生細胞で観察する技術である。本研究の目的は、タンパク質の構造変化を3次元で、生きた細胞の中で観察する超解像顕微鏡法の開発である。本研究では、偏光光学系とデジタル画像解析によって、蛍光標識されたタンパク質の3次元方向とその時間変化を生きた細胞内で観察する顕微鏡システムを開発する。本年度は、これまでに確立した全反射照明蛍光顕微鏡をベースとした分子配向観察システムに加えて、新たな偏光光学系と画像解析ソフトウェアを装備した、ライトシート蛍光顕微鏡システムを完成させた。これにより、これまで2次元的なカバーガラス上に広がる培養細胞にしか適用できなかった分子配向観察技術を、3次元空間に広がりをもつ3次元培養細胞や、オルガノイド、生体組織や個体内の細胞に適用できるようになった。共同研究者らによって開発された、遺伝子によってコードされた分子配向プローブを発現するライン化細胞の3次元培養系を確立し、内腔をもつスフェロイド状の細胞塊を形成するブタ尿細管由来の培養細胞LLCPK1の細胞骨格における、3次元分子配向の時空間変化を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年1月末までに、前年度に構築したライトシート顕微鏡に蛍光1分子観察が可能な高感度の背面照射型CMOSカメラおよび、新たにデザインした蛍光偏光光学システムおよび、MTALABをベースとした画像解析システムを導入した。これにより、これまでは不可能だった、ゼブラフィッシュやメダカ等の小型魚類の個体内部や、マウス脳スライスなどの単離組織、オルガノイドや3次元培養細胞などの、3次元空間に広がりをもつ生体試料内の細胞における分子配向観察が可能となった。この3次元分子配向観察用顕微鏡システムに特化した蛍光偏光観察キャリブレーション法や蛍光偏光方向を算出する画像解析法については、基本的な開発をほぼ完了した。分子配向プローブを発現する細胞等の観察試料の確立に関しては、本年度に国内の共同研究者らによりアクチンをはじめとする細胞骨格タンパク質の分子配向プローブおよび、これらのプローブを定常的に発現するライン化細胞が確立された。3次元空間に広がりをもつ生体試料の全体像を走査するためのピエゾステージの納入が目下コロナ禍による半導体不足の影響で遅れており、顕微鏡システムの完成は次年度に持ち越すことになった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、前年度まで開発をすすめてきた3次元顕微鏡システムを完成させた上で、国内の複数の共同研究グループによって確立された分子配向プローブを発現する培養細胞や小型魚類モデルを利用し、実験を遂行する。3次元培養された細胞やオルガノイド、単離組織、さらには小型魚類モデル生物内における細胞内微細構造の時空間ダイナミクスを、構成分子の配向観察から明らかにする。3次元装置開発の実験技術法を中心とする論文を年内に投稿し、年度内の受理を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に伴う世界的な半導体不足の影響により必要となる機器納入が遅れており、令和3年度発注した機器のうち、3次元顕微鏡の試料ステージ走査に必須となるピエゾステージは、契約通りの令和3年度内の納品が間に合わなかった。顕微鏡システムを完成させること、および3次元分子配向観察法の開発に関する論文報告を完了させることが、次年度使用の主な理由である。令和4年度上半期には令和3年度発注の機器を入手して装置を完成させ、平行して進めている細胞内微細構造観察のための3次元培養細胞や単離組織片、小型魚類個体を用いて、速やかな実験の実施を進める予定である。
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