研究課題
真核生物細胞の生命活動を担うオルガネラなどの様々な細胞内微細構造は、光学顕微鏡の解像度よりもはるかに細かい内部構造を持つ。近年の超解像顕微鏡法の開発により、これらの内部構造が生きた細胞で観察できるようになった。その中で立ち遅れているのは、ナノスケールの分子構造変化やその時系列ダイナミクスを生細胞で観察する技術である。本研究の目的は、タンパク質の構造変化を3次元で、生きた細胞の中で観察する超解像顕微鏡法の開発である。本研究では、偏光光学系とデジタル画像解析によって、蛍光標識されたタンパク質の3次元方向とその時間変化を生きた細胞内で観察する顕微鏡システムを開発する。本年度は、前年度までに確立した分子配向観察用ライトシート蛍光顕微鏡システムを、個体丸ごと観察に適用するための試料操作法および3次元画像取得法の確立を目指した。In vivoの生体まるごと観察に適した孵化後1-2週間のメダカ稚魚や、成体でも全長が10ミリ程度のダニオネラをモデルとして、個体全体の3次元観察するための生体保持法および3次元断層撮影のためのスキャニングシステムの開発を試みた。肉薄のフッ素樹脂チューブ内に封入した観察個体をピエゾアクチュエーターで観察光軸方向に高速で繰り返しスキャンすることにより、個体内組織の細胞内構造を3次元観察する。観察個体の保持方法、スキャニング速度およびスキャン幅の最適化を進める。
3: やや遅れている
令和4年9月末までに、ゼブラフィッシュやメダカ等の小型魚類の個体内部や、マウス脳スライスなどの単離組織、オルガノイドや3次元培養細胞など、厚みがある生体試料内の細胞における分子配向観察が可能となり、オルガノイドやスフェロイドにおける膜裏打ち細胞骨格分子の分子配向断層観察結果を生物物理学会年会等で発表した。しかしながら焦点平面を3次元生体試料内で光軸方向にずらしながら撮影するために必要なピエゾアクチュエーターの納品が昨今のCOVID19による半導体不足の影響で1年以上遅れて令和5年3月の納品となったため、本来の最終年度である令和4年度内の装置完成と応用例の取得には至らなかった。このため、最終年度を1年延長する申請をおこない、顕微鏡システムの本格的な応用は次年度に持ち越すことになった。
コロナ禍に伴う世界的な半導体不足の影響により必要となる機器納入が遅れ、令和3年度発注したピエゾアクチュエーターは、契約の令和3年度内から1年あまり遅れて令和5年3月に納品された。顕微鏡システムを完成させることと論文報告を完了させることが、次年度使用の主な理由である。令和4年度上半期には令和3年度発注の機器を入手して装置を完成させ、平行して進めている細胞内微細構造観察のための3次元培養細胞や単離組織片、小型魚類個体を用いて、速やかな実験の実施を進める予定である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
ACS omega
巻: 7 ページ: 9701-9709
10.1021/acsomega.1c07206