研究課題/領域番号 |
18KK0007
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 祐子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (80278803)
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研究分担者 |
星野 幸代 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00303587)
中谷 いずみ 二松學舍大學, 文学部, 准教授 (10366544)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
小泉 京美 武庫川女子大学短期大学部, 日本語文化学科, 講師 (70779206)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2024-03-31
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キーワード | 女性雑誌 / 東アジア / 1930年代 |
研究実績の概要 |
2018年度は、「東アジアと日本語フォーラム上海大会」(2018.10-20-21、於復旦大学)において、「1930年前後のアジア女性雑誌」と題し三つの報告からなるパネル発表を行った。雑誌というメディアが地域間の情報の流通に直接的な働きを及ぼしていたことは言うまでもないが、1930年前後のアジアの各地域の女性雑誌が、外部の情報をどのように取り入れどのように応答していたのかという観点から、日本・韓国・中国の女性雑誌の状況を比較検討した。飯田祐子「『女人芸術』と外部」は、日本で発刊された『女人芸術』を対象として、日本の同時期の女性雑誌と比較して顕著に多く外地及び外国に関する情報が掲載されたことを確認するとともに、その変化と質的傾向を明らかにした。張ユリ「朝鮮の女性雑誌にみるスポーツ」は、近代文化としてのスポーツを植民地の女性がいかに受容していたのかについて分析した。西洋宣教師による教育の一環として導入された近代文化の一つであるスポーツには、民族主義に基づいて展開したという特質があることを確認した上で、女性雑誌と男性雑誌との間に民族主義の展開の仕方に差異があることを論じた。楊佳嘉「初期『婦女共鳴』と外国の繋がり」は南京国民政府の厳しい言論統制の中、国民党出身の女性識人たちが婦人運動の再興を目指して創刊した女性雑誌『婦女共鳴』を対象とし、女性知識人たちの外国女性への眼差し及び外国婦人運動との関連性を考察した。三報告の後、ディスカッサントの呉佩珍が、台湾の事情とともに、アジアにおける女性雑誌の応答関係の実情と可能性について論じた。 また、第一回研究会を開催し(2019.3.11、於名古屋大学)、飯田が「アジア女性雑誌研究 課題と方法」の報告を行った。本研究の課題を確認するとともに、各地域の研究状況と資料の所蔵状況について情報を共有し、2019年度の計画を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体として概ね計画通りに進行している。共同研究メンバーの担当は地域毎に設けており、計画に従って、日本を飯田祐子・中谷いずみ・笹尾佳代が、中国を星野幸代(および楊佳嘉)が、満洲を小泉京美が、また韓国を研究協力者・孫知延(および張ユリ)が、台湾を呉佩珍(および張文聰)が担当している。2018年度は、3月に開催した研究会に向けて、各担当地域について、女性雑誌研究の現状や資料の所蔵など、基礎情報の整理を進めた。 同時に個別研究の一部については発表する機会を設け、計画に沿って、10月にパネル報告を行った。1930年前後のアジアの各地域の女性雑誌における、外部情報の取り入れという観点から、日本・韓国・中国の女性雑誌の状況を比較検討した。外部情報の摂取に焦点を絞ったためでもあるが、地域の特性が女性雑誌にも反映され、それぞれの地域の近代化の過程において国家や民族という枠組みがどのように構成されているかという問題が浮かびあがった。また、三地域の比較を行うことによって、日本から韓国および中国へという情報の流れがあるとともに、日本においても欧米やロシアの情報とともに東アジアの情報に関心が寄せられていることが確認された。 3月に開催した研究会では、研究計画において具体的課題とした三点(①東アジアにおける女性表現者・女性知識人の文化生産の同時性と地域固有性、②東アジアの各地域・国における〈ジェンダー・セクシュアリティ構造〉と〈公/私構造〉の交差、③東アジアの各地域・国における内部/外部の構成とジェンダー化)について再検討し、方向性を確認するとともに、2019年度より順次行う予定の海外での共同調査に向けて、各々の地域の研究状況や資料の所蔵に関する情報の共有を図った。他に、成果発信および情報共有のためHPを作る必要性などが指摘され、作業内容について、議論を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、基礎作業として資料の復刻とデータベース化の整理を続ける。日本については、三鬼浩子「近代婦人雑誌関係年表」(『『日本の婦人雑誌』解説編』1994)を利用し、中国については、前山加奈子「中国の女性向け定期刊行物の創刊年一覧表 1898年-1949年」(『近きに在りて』48、2005)を基盤とする。韓国については、女性雑誌刊行に関するリストの作成を行う。作業の際、〈総合雑誌、文芸雑誌、左翼雑誌、機関誌〉に分類し、各地域での傾向を把握する。とくに、左翼雑誌や機関誌などの非商業誌の考察に力を入れる。また、消費者としてではなく、文化生産者としての女性の動向を浮かび上がらせるため、女性執筆者の多寡についても調査する。以上の進捗状況の報告のため、国内において研究会を3度(7.21、9.22、12.22、於名古屋大学)開催する。海外での合同調査は、台湾にて行う(3月予定、於台湾政治大学)。具体的には、以下の三つについて検討を進める。①『台湾婦人界』を検討対象とし、同時期の日本・韓国・満洲の状況と照らし合わせる。②国立台湾図書館所蔵の雑誌の閲覧およびデータベースを利用し、女性知識人と女性作家の動向調査を行う。③台湾における女性雑誌研究者との意見交換を行い、情報の共有を具体化させる。他に成果報告として、東アジア日本研究者協議会(2019.11.1-2、於台湾大学)にて、パネル報告を行う。女性雑誌における当時のナショナリズムないし左傾化という文脈において女性から女性に向けてどのような文芸・主張が発信されていたかという観点から、張文聰「『台湾婦人界』―日本内地の雑誌との比較の視点から」、楊佳嘉「上海『玲瓏』―ナショナルな文脈における間隙」、中谷いずみ「『女人芸術』から『婦人戦線』へ」、星野智代「東京女高師から『婦女生活』に至る沈ジ九の思想的変遷」の四報告によって構成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に台湾で開催される「東アジア日本研究者協議会」でのパネル報告を追加で計画したため、その旅費として使用する。
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