研究課題/領域番号 |
18KK0017
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大澤 孝 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20263345)
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研究分担者 |
山口 欧志 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (50508364)
大谷 育恵 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (80747139)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 東部モンゴル / 突厥・ウイグル時代 / 岸壁碑文 / 石人 / イフ・オンドゥル・ドブジョー遺跡 / デルゲルハーン山 / 仏教寺院 |
研究実績の概要 |
本年度は、モンゴル科学アカデミー歴史考古学研究所との学術協定に伴い、2019年6月19日から25日には研究代表者の大澤がモンゴル人考古学者と、モンゴルのトゥブ県のトグス・ホルで、突厥時代の石囲い遺跡を計測調査と写真撮影を行った。またゴビ・オグタル郡のビチクト・オオル山では突厥時代の岸壁銘文、タムガや岩絵の調査を実施した。またヘンテイ県ボル・バンドゥル郡では突厥時代の4m近い高さの石人柱石を表面調査した。この後は、ドルノド県バヤンドン・ソム郡にあるウイグル時代の城塞を訪れ、瓦や出土遺物の点検を行ない、出土した瓦からは3点の裏側にタムガと思われる刻線を確認することができた。なお本調査にかんするデータ分析などは帰国後、研究分担者の山口に依頼した。 また、9月5~21日には、大澤と研究分担者の大谷が、モンゴル考古学研究所の研究者と共同で、東部モンゴルのスフバートル県テブシンシレー郡のデルゲルハーン山の西麓の川中にあるイフ・オンドゥル・ドブジョー(基壇)遺跡の試掘を行った。本遺跡は、そこから南に約7km離れた高台に位置する突厥時代のドンゴインシレー碑文遺跡とも近距離にあり、周辺遺跡との関係を探る目的で試掘した。主に3段からなる基壇遺跡の西北隅から中央に抜けてトレンチ溝を引いて、発掘を進めていった。遺跡の北側にかけて多数の瓦や煉瓦が散乱しており、これらを慎重に取り除きながら、試掘を進めていった。中央付近の基壇から獣骨片、板の破片、金属片、白と赤や緑の彩色の漆喰粉、おそらくは仏像の足の破片などが出土した。帰国後、漆喰の分析は奈良文化財研究所に依頼し、また獣骨の年代測定は東京大学総合博物館の専門家に放射性炭素年代分析を依頼した。その結果、本遺跡は15世紀後半から17世紀前半の明末の仏教遺跡であることが明らかになった。本調査に関しては大谷が2月16日に九州大学の北アジア調査研究会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はモンゴル科学アカデミー歴史考古学研究所との学術協定において、モンゴル側の研究者との共同調査を実施することで若手研究者の育成や両国の学術協力を活性化する目的があり、この点では、これまでの大澤、大谷、山口らがモンゴル側と共同で実施してきた調査経験と日本・モンゴル双方における信頼感に基づく緊密な連絡を通してえられた重要な新情報や入念な調査体勢を構築した上で実施され、少なからず成果を挙げたことは大きな意味がある。 具体的は、まず、6月中の東部モンゴルでの表面調査では、従来不明であった石囲いの石人や岸壁銘文などの所在地や保存状況が確認されたこと、そしてヘンテイ県の石人は青銅器時代の鹿石を再利用した遺跡であることが明らかになったことは今後の東部モンゴル時代の石人の作成背景を考える上で、大きな収穫となった。 一方、スフバートル県のテブシンシレー郡のデルゲルハーン山の西麓のイフ。オンドゥル・ドブジョーの基壇遺跡の発掘調査に関しては、我々が当初予期していたように突厥・ウイグル時代の遺跡ではなかったことは残念ではある。しかし、新たにスフバートル県のテブシンシレー郡のデルゲルハーン山近郊で明末期の仏教遺跡が建造されていたことの意味は極めて興味深い。というのも、モンゴル仏教史の専門家である大谷大学の松川節教授からは、本東部モンゴル地方における仏教寺院に関する建造背景に関しては、全く文献に記載がなく、考古遺跡を通して明らかになったものであり、東部モンゴル史を再構築する際には大きな意義を持つ遺跡との評価を得ている。本地域にはこれ以外にも大小4点ほどの未調査の基壇遺跡が発見されており、今後、これらの遺跡の歴史的性格を考察する上でも、今回の発掘調査結果はモンゴル仏教史の全体潮流を見直すための基盤資料を提供するものといえる。 以上から、現在の研究状況はほぼ順調に進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、これまで通り、モンゴル科学アカデミー歴史考古学研究所との国際共同調査を推進してゆく予定である。 ただ、現在の状況は予期せず、新型コロナウイルスの感染がパンデミックの様相を呈しており、本研究の調査対象地域であるモンゴルも例外ではなく、外国人の入国は禁止されている。それ故、本調査の眼目となる東部モンゴル高原でのフィールド調査が予定通り進展することができるのかどうかは、現段階で、確言できないことはあらかじめご承知いただきたい。 ただもしこの状況が改善され、モンゴル高原での調査が許される段階に至った際には、たとえば8月中に大澤がモンゴル考古学研究所との学術協定に基づき、同研究所との研究員と共同で、中央モンゴルからモンゴル東部の碑文遺跡(岸壁碑文、石人遺跡や石囲い遺跡、バルバル立石など)の表面調査を実施し、その所在や細部情報を得たいと考える。 その上で、もし可能ならば、9月中にはモンゴル東部スフバートル県のテブシンシレー郡にあるウイグル時代の石囲い墓などを発掘調査したいと考え、モンゴル側と協議中である。 またここでえられた調査結果については、国内外の研究会で発表したいと考えている。 なお、上記のフィールド調査が実施できなかった場合でも、代表研究者の大澤は、本研究課題の研究分担者の大谷や山口と共に、昨年までの現地調査でえられた碑文・遺跡の解読や分析作業を総合的に行い、今後、東部モンゴルの歴史を再構築するための研究データを提供すべく、公表にむけての協議を重ねてゆきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予定では、9月の発掘調査で出土した際の出土遺物が予想以上に、点数が少なく、また分析に耐えられるほどの精度の高いサンプル資料が得られなかったため、遺物の放射性炭素年代測定のための当初の費用を下回ったこと、また3月末に予定していたモンゴル考古学研究所を訪問して、本年度の発掘調査の分析結果に関する合同協議ならびに、次年度の表面調査と発掘を実施するための事前の予備表面調査が、新型コロナ感染防止策のため、実施できなかったことがあげられる。 次年度では、上記で生じた使用額については、コロナウイルス感染防止策が解除された際には、モンゴル考古学研究所に赴き、本年度の調査結果の総括協議を行うとともに、次年度の発掘調査に向けた協議と予備調査費と、9月に予定されている発掘調査費に充てたいと考えている。
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