研究課題/領域番号 |
18KK0017
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大澤 孝 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20263345)
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研究分担者 |
山口 欧志 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (50508364)
大谷 育恵 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員研究員 (80747139)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 東部モンゴル / 突厥 / ウイグル / イフ・オンドゥル・ドブジョー / 石囲い遺跡 / 石人 / 突厥碑文 / 遺跡の歴史景観の復元 |
研究実績の概要 |
本年は新型コロナ感染拡大のため、本研究で、当初計画していた本年度のモンゴル国東部のスフバートル県テブシンシレー郡の古代テュルク系遊牧民の考古学遺跡の発掘調査は不可能となった。そのため今年度は昨年の調査結果の分析作業およびこれまで大澤がモンゴル考古研と実施してきた突厥・ウイグル時代の碑文・遺跡に関して、蒐集してきた資料に関しての分析整理作業を実施した。 まず、昨年9月にモンゴル考古研と共同で発掘調査したイフ・オンドゥル・ドブジョー遺跡から出土した壁土の成分分析を奈良考古学研究所の研究員に、中央の基壇箇所の壁画断片の土壌分析作業を依頼し、今後、同時代の寺院で使用された土壌や色彩要素に関して比較可能な分析結果を得た。 また、昨年も含めて、大澤は、本研究と密接に関係するモンゴル国の草原地帯で行ってきた表面調査の中で、本研究と密接に関わる突厥・ウイグル時代の石囲い遺跡やそこに付属する石人、バルバル立石、そして各地の岸壁碑文や岩絵、そして部族の標章とされるタムガに関して、一部碑文の試読作業やデータのとりまとめを行い、その成果を発表した。 また、本研究の分担者である大谷育恵は、昨年に新たにモンゴル高原のアルハンガイ県で発見された匈奴単于の龍城とされる遺跡付近で新たに発掘された飾物遺物の形状や模様などから、それらが匈奴時代よりも鮮卑時代に属する遺物である可能性に言及し、今後のモンゴル高原における鮮卑部族の拡大状況を俯瞰する上で貴重研究を行った。 また、同じく研究分担者の山口欧志は、大澤と共にモンゴル考古研と共同で発掘調査し、ドローンやデジタル写真で撮影したスフバートル県テブシンシレー郡の突厥時代の遺跡であるドンゴインシレー遺跡を、その中央付近に立てられた14本の碑文の根元の位置から、復元作業を行った。本研究は今後の本遺跡を取り巻く歴史景観の復元を行う際にも多いに役立つ成果と見なすことが出来よう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ウイグル時代の石囲い遺跡や石人遺跡、岸壁碑文や岩絵資料などに関して、整理分析をする事が出来たことは重要な成果と見なすことが出来よう。 また、これに加えて、2015~2018年まで東部モンゴルで大澤がモンゴル考古研と共同実施したスフバートル県テブシンシレー郡のドンゴインシレー碑文遺跡に関して、分担者の山口欧志は、碑文遺跡の中央部に関して、碑文の根元の存在から、遺跡が建設された当初の姿を再現すべく、ドローン撮影やデジタル写真から遺跡中央部の復元作業に取り組み、遺跡中央部の全貌を伝える資料として大きな収穫となったことを力説しておきたい。 また、分担者の大谷育恵は昨年にモンゴルのアルハンガイ県で新たに見つかった匈奴時代の遺跡付近から出土した遺物について、遺物の鑑定を推し進めて、これが鮮卑時代の遺跡である可能性に言及し、モンゴル国における鮮卑研究に新たな一石を投じたといえ、貴重な成果と見なすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、一昨年度にモンゴル考古研と共同で発掘調査した東部モンゴルのイフオンドゥルドブジョー遺跡から出土した動物骨の放射性炭素年代の分析結果から判明した年代や、遺跡北辺から出土した軒丸瓦や平瓦を文様や形式から整理分類した成果、中央付近から出土した壁画の成分分析を通して、本ドブジョー遺跡の歴史的文化的機能に関してモンゴル側と成果を共有し、今後の発掘成果の出版を目指したい。 また新型コロナウイルスに感染する可能性がなくなった環境下において、今年は当初予定していたにもかかわらず、昨年度には実施できなかったモンゴル東部のスフバートル県テブシンシレー郡のウイグル時代の石囲い遺跡の共同発掘調査および周辺地方での同時代の碑文遺跡の表面調査を実施する予定である。 その際には、分担者の大谷育恵や山口欧志とともに、発掘された羊や馬、牛などのお供え用の動物骨などから、放射性炭素年代の分析を日本の専門機関に依頼して、年代を割り出す。また出土した遺物に刻まれた文字資料の解読分析作業や、遺跡を建造した部族に特有の標識であるタムガについても分析を進め、本遺跡の歴史文化的特徴について明らかにしたいと考えている。 また可能であれば、本調査対象の突厥・ウイグル時代の碑文遺跡について、モンゴル西部やモンゴル中央部の遺跡に関して表面調査を実施する予定であり、その際に蒐集されたデータを含めて、東部地方での碑文遺跡と整理作業を実施したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年は新型コロナ感染症拡大のため、モンゴル国への入国が出来ず、当初の調査計画が遂行できなかったこと、また日本でも同様の感染症が拡大し、研究に関する集会や研究会が開催されなかったことにより、次年度の使用額が生じることとなった。 なお、本年度では、昨年に発掘調査した東部モンゴルの遺跡の発掘調査に関係した内外の図書の購入や、出土した動物骨や壁画資料の資料分析代などに充当した。 今回の未使用額に関しては、2021年度におけるモンゴル考古学研究所と共同で実施予定のモンゴル東部における古代テュルク時代の遺跡に関する発掘調査および周辺領域における同時代の碑文・遺跡の表面調査、そして出土資料に関する放射性炭素年代や土壌分析に関わる委託費用、もしくは本調査研究に関わる研究集会などに充てたいと考えている。
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