研究課題/領域番号 |
18KK0021
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
国武 貞克 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (50511721)
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研究分担者 |
佐藤 宏之 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50292743)
夏木 大吾 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (60756485)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | カザフスタン / 後期旧石器時代前期(EUP期) / 小石刃核 / 地床炉 / 中型石刃核 / 放射性炭素年代測定 / 多層遺跡 / 石刃石器群 |
研究実績の概要 |
2019年度は、カラタウ山地においてビリョックバスタウ・ブラック1遺跡の第2次発掘調査と、天山山脈北麓のクズルアウス2遺跡の第2次発掘調査を実施した。 ビリョックバスタウ・ブラック1遺跡では、小川の右岸で2018年度に左岸に設定した調査区と対称形になるように調査区を配置した。その結果2018年度と同様に、上層の粗砂層と、下層の粘質土層に包含される2枚の文化層を層位的に検出した。上層文化層には円柱形の細石刃核が、下層文化層には小石刃核が含まれるため、後者が後期旧石器時代前期(EUP期)と確認できた。さらに、低位面を取り囲む比高2mの高台において、調査区を設定して地表下1.8mまで掘削したところ、濃密な石器包含層が検出された。大型の地床炉も検出され、その地床炉から採取した炭化物が放射性炭素年代測定により更新世末期の年代が得られた。この新発見の高位面の文化層は、低位面で検出した上層文化層のオリジナルな生活面と考えられる。本遺跡で初めて原位置を保った生活面を検出したのは大きな成果である。 クズルアウス2遺跡では、2018年度のトレンチを台地の最奥部まで延長して、台地を断ち割る調査区を設定した。その結果、2018年度と同様に4枚の文化層が検出されたが、2018年度に遺物点数が少ないため詳細が不明であった第1文化層と第4文化層について多くの良好な資料が得られ、その結果第1~4文化層のすべてが石刃生産遺跡であることが判明した。各文化層で検出した地床炉から採取した炭化材を放射性炭素年代測定を実施したところ、34-31ka cal BPの間で、1ka程度の差で層序と矛盾なく並び、EUP期後半の重層的な石刃生産遺跡であることが判明した。 このように、両遺跡ともにEUP期の良好な重層遺跡を発掘調査し、それぞれ内容が全く異なる極めて一括性の高い資料を獲得することが出来たのは大きな成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ビリョックバスタウ・ブラック1遺跡の発掘調査では低位面の調査を今年度終了させる予定であった。昨年度と同様の成果が確認できれば、2か年分を合わせていったんこの遺跡の発掘調査を終了させる予定であった。層位的に2枚の文化層を検出したが、水成堆積層なので遺物が原位置を保っていないと考えられるためである。 しかし、高位面を新たに深く掘削したことにより、新たに地床炉を伴う遺物が原位置を保ったオリジナルな生活面を検出することができ、この遺跡における先史人類の生活拠点が高位面に良好に保存されていたことが新しく判明したのである。今後は、この高位面において、広い範囲を面的に掘削すれば、オリジナルな生活面を検出することができ、一括性の高い良好な資料を獲得し得ることが期待される。これは当初全く予想していなかった大きな成果であった。 クズルアウス2遺跡では、昨年度の調査で詳細が不明であった第1と第4文化層も、石刃石器群と判明し、第1~4文化層のすべてが石刃石器群ということが新しく分かった。中央アジア西部のEUP期には、石刃石器群がほとんど知られていないため、本遺跡の発掘調査は極めて重要な成果を、中央アジア旧石器研究にもたらすこととなる。 以上から、2019年度の本研究課題の調査研究は、当初の計画以上に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
クズルアウス2遺跡では、いったん出土石器の集中的な整理作業を実施して、中央アジア西部で極めてまれなEUP期の石刃生産地点として英文による論文発表を目指す。炭化物の年代測定分析が不十分であるため、分析点数を増やして確実な年代データを増やす必要がある。他に、石器接合や実測などが必要である。 ビリョックバスタウ・ブラック1遺跡では、今年度で発掘調査を中止する予定であったが、高位面に良好な生活面が依存し、低位面より重要であることが判明したため、高位面における広域な発掘調査を実施する。その一方で、低位面については発掘調査成果がまとまったので、これを論文化する。この際に英文による論文発表を目指す。 本研究課題では、カザフスタン南部における新人の拡散と定着の実態解明が重要なテーマとなる。そのためにはIUP期からEUP期にかけての石器群の変遷を追求する必要がある。これまでの申請者の発掘調査によって、得られた新しい情報により、IUP期である可能性が高まったチョーカン・バリハノフ遺跡第8.9文化層と、EUP期後半に石刃石器群が重層するクズルアウス2遺跡の間をつなぐ、EUP期前半の石器群を新しく把握する必要がある。この時期の石器群は、この地域では見つかっていないため、これら3遺跡の発掘調査や成果のとりまとめと並行しながら、EUP期前半(40-35ka BP)の年代の遺跡探索が不可欠である。これについては本研究期間の後半で、実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
クズルアウス2遺跡の発掘調査において、共同研究者が所属するカザフ国立大学が、調査経費の一部を負担したため、当初予定した金額より下がり本研究課題の経費が余り、次年度使用額が生じた。
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