研究課題
最終年度である本年度は、昨年度(2023年2月)に実施したオンラインによる国際シンポジウムの成果をとりまとめ、日本語の書籍として出版することで本共同研究の公開を行った。同国際シンポジウムは、2023年1月に法務省により発表された法制審議会担保法制部会の中間試案を英訳し、各国の専門家からみたコメントを集め、それを素材とする議論を行うものであった。専門家は、東アジアだけでなく、北米、オセアニア、ヨーロッパ(フランス法の影響の強い地域)、ヨーロッパ(ドイツ)から参加いただいた。それゆえ、開催も、時間帯の異なる地域と使用言語によって、5部会に分けて行った。そのとりまとめは、まず、すべての報告原稿を、本研究課題の研究分担者および協力者で分担して日本語論文に翻訳することから始め、さらに、議論の要旨を整理して原稿化する作業となった。研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、動産担保法制のとりわけ立法論における東アジアの位相と、そこにおける我が国の議論を明確にし得たことである。現在、この分野では、北米およびオセアニアが採用する米国UCC第9編の影響を受けたある種の国際水準論が展開されている。現代的取引規範の原則を示す議論であるものの、その原則の最も簡明な実現手段はUCC第9編型の規範の輸入であるという意味で、実質的な国際水準論である。しかし、独仏法はいずれも、この水準論とは距離をおいており、債権譲渡についてはこれと方向性の異なる欧州域内での水準を模索しつつある。東アジア諸国は、国際水準論に反応して何らかの立法論を経験したが、欧米いずれとも異なる位相にある。大陸法の基礎を維持しつつ、国際水準論から取り入れるべき機能的要素を模索する方向性である。わが国の立法論は、まさにそのような方向性をリードする議論を展開しており、他の法域からの注目を集めている。これが、国際的位相と、域内の位相である。
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