研究課題/領域番号 |
18KK0043
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
島村 靖治 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50541637)
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研究分担者 |
山田 浩之 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (40621751)
松島 みどり 大阪商業大学, 公共学部, 講師 (20634520)
神谷 祐介 龍谷大学, 経済学部, 准教授 (30636072)
中澤 港 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (40251227)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | プライマリ・ヘルスケア / ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ / インドシナ |
研究実績の概要 |
本研究課題に関連した最初の研究成果として、Sustainable Development Goals(SDGs)でも重要な目標のひとつとされているUniversal Health Coverage(UHC)の実現に向け、”Health”の概念そのもとについて再考察を行った論文を発表している。”Health”の概念は医療プロフェッショナルの間でも、時に病気なく長生きすることという限定的な意味で捉えられる。一方、WHOの定義では「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱 の存在しないことではない」とされ、健康とは自然に存在するものではなく、人工的な概念であることがわかる。本論文では、健康の阻害要因としての”Disease”, “Illness”, “Sickness”と健康との関係についてのより包括的なフレームワークを示すと共に、UHCの実現に向けて、単に”Disease”の治療だけではなく、予防や社会環境の改善の重要性を指摘している。 次に、医療保険への加入率を更に上げるための議論として、民間企業が提供する医療保険に関する議論がある。現在、法律で従業員の加入が義務付けられている大企業でも実際には法令を遵守していないケースが多々ある。“Health insurance coverage and firm performance: Evidence using firm level data from Vietnam”では医療保険の加入と企業利益や労働生産性との関係を検証している。分析結果は、産業によっては企業の従業員の医療保険への加入が企業利益や労働生産性を高める効果があることを示している。本研究の分析結果は企業が従業員を医療保険に加入させることで、企業側にもメリットがあることを示し、保険の加入率を挙げるための政策議論に一石を投じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2015年に国連で採択されたSustainable Development Goals(SDGs)の第3重要課題に設定された「健康な暮らし及び厚生の促進」に関連した研究課題に対して、現地調査を通して収集するデータを用いて取り組むことを目的としている。具体的にはインドシナ半島の国々(ラオス、カンボジア、ベトナムを予定)を取り上げる。これらの国々において(1)独自かつ3か国ほぼ統一スタイルの医療施設調査及び医療従事査調査を行い、プライマリ・ヘルスケアに関連した医療サービスの供給面の課題にフォーカスした分析を実施する。更に、(2)2020年までに医療保険の国民皆保険化を目指すベトナムにおいて皆保険化の達成までの政策インプリケーションについての研究を行い、近い将来医療保険制度の導入が予想されるラオス、カンボジアにとってどのような教訓を引き出すことができるか検証を行う。なお、こうした研究を村落レベルの一次医療施設で実施することにより、SDGsの最重要課題「貧困撲滅」の実現にも貢献する研究となることが期待できる。 現在は、上述の新たな現地調査の準備と共に、既存のデータを使った論文の執筆、セミナー等での発表、国際学術誌への投稿を進めている。本年度は特にこれまでにベトナムの調査で収集したデータを用い、医療保険制度についての研究を進めている。なかでも、保険加入率の分析として(ア)家族割制度導入の効果、(イ)リファラル制度改正の効果、など最新の政策効果に着目した分析を進めている。そして、(ウ)こうした政策により健康状態の悪い人ほど医療保険に加入する「逆選択」の問題はいつまで残るのかについても検証を行っている。同時に、(エ)残り2割の未加入者の人々の医療保険への加入が医療費自己負担を軽減しつつ医療サービスの利用の促進に繋がるのか分析する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主にラオスおよびカンボジアでのフィールド調査の準備を行う。まず、7月までに3ヶ国共通で利用できる質問票の原案を作成する。そして、8月にラオスのカウンターパートであるNational Center for Laboratory and Epidemiology(NCLE)、9月にカンボジアのカウンターパートであるNational Institute of Public Health (NIOPH)を訪問し、研究実施計画について打ち合わせを行う。その後、両国において調査実施のための準備を進めてもらう。この準備過程には倫理審査や調査対象地域における地方行政組織との折衝も含まれている。そして、こうした準備には多大な時間がかかることが予想されるため、調査の実 施は2020年1月からを予定している。 上述のラオス、カンボジアに加え、ベトナムでの調査についても準備を進めていく。ただし、ベトナムではこれまでに既に2回医療施設調査を実施した実績がある。そのため、他の2ヵ国に比べ、調査準備にかかる負担はそれほど大きくないと想定している。本研究では最終的に、3ヶ国での国際比較を目指している。そのため、実際の調査の実施は、疾病・疾患の季節性を踏まえ、3ヶ国すべて同じ時期に実施する計画である。なお、こうしたアレンジを行うことで、本研究において中心的な研究手法であるDiscrete Choice Experiments (DCE)の実施のために必要となるソフトフェアの年間利用契約料を最小限に抑える狙いもある。DCEを使った分析では、人材確保が難しい第一次医療施設で働く医療従事者に対し、どのような報酬が彼らから最も望まれているのかを検証する。加えて、彼らのワークモチベーションについての研究も実施したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2018年度に予定していたラオスおよびカンボジアにおけるカウンターパートの訪問を2019年度に変更したため、旅費として執行する予定であった予算が繰り越しとなった。
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