研究課題/領域番号 |
18KK0043
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
島村 靖治 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50541637)
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研究分担者 |
山田 浩之 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (40621751)
松島 みどり 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20634520)
神谷 祐介 龍谷大学, 経済学部, 准教授 (30636072)
中澤 港 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (40251227)
佐藤 希 愛知学院大学, 経済学部, 講師 (30838040)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | プライマリ・ヘルスケア・システム / 医療保険制度 / インドシナ半島 / ベトナム / ラオス / カンボジア |
研究実績の概要 |
本研究は、2015年に国連で採択されたSustainable Development Goals(SDGs)の第3重要課題に設定された「健康な暮らし及び厚生の促進」に関連した研究課題に対して、既存データならびに現地調査を通して収集する独自データを用いて取り組むことを目的としている。2021年度は、ベトナム中部の3省において2014年と2017年に収集した調査データを使用し、妊産婦の検診・出産時の医療施設選択行動に関する実証分析を行っている。なかでも、妊産婦の医療施設選択行動と医療保険の指定施設との間の関係を検証し、妊産婦が村落レベルの公的第一次医療施設(CHC)を指定施設とする医療保険に加入していた場合、CHCを利用する確率が高くなる傾向にあったことを確認した。妊産婦の検診・出産時の医療サービスの受診は医療保険の加入状況に拘わらず原則無償である。したがって、保険加入者がCHCを利用する金銭的メリットは少ないにも拘わらずCHCを利用する妊産婦が増加する傾向にあったことは非常に興味深い発見である。こうした分析結果について国内学会で発表すると共に、論文としてまとめ愛知学院大学経済研究所所報として公刊した。 また、カンボジアのDemographic and Health Surveyを使った分析も行っている。カンボジアでは2009年に公的医療施設で働く医療従事者に対する報奨金制度を導入し、医療従事者の勤労意欲を改善、医療サービスの質の向上を図っている。そして、既存研究では報奨金制度導入の結果として、医療従事者が時間通りに出勤するようになるなど行動変容がみられたと報告している。そこで、本研究では、更にこうした医療サービスの供給側の変化により、疾病・疾患に罹患した人々がより公的な医療施設を利用するようになったかどうか検証を行い、その分析結果について国内学会で発表を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに実施してきた独自調査データと公に公開されている既存データを使った研究については、若干の遅れはあるものの概ね計画通りの進捗状況である。ベトナムでは、中部3県において実施した独自調査データを使い2016年に導入された(ア)保険料の家族割引制度の加入率への影響、(イ)リファラル制度の改正による医療施設選択行動への影響についての分析を進めている。また、ベトナム統計局が隔年で実施しているVietnam Household Living Standard Surveyを使い(ウ)医療保険市場における「情報の非対称性」の問題の検証などを行っている。加えて、カンボジアではDemographic and Health Surveyを使った研究を進めている。 他方で、新たな現地調査については、新型コロナウィルス感染症の全世界的な蔓延により、日本人研究者が現地調査に同行できないだけでなく、現地のカウンターパートによる活動も大きく制限され、これまでのところ実施できていない。そのため、研究の進捗には大きな遅延が生じてしまっている。ベトナムにおける独自調査の大きな目的は、2020年の医療保険の皆保険化の達成過程をリアルタイムでモニタリングし、そこから近い将来大々的な医療保険制度の導入が予想される近隣諸国にとっての教訓を引き出すことであった。しかし、2021年に調査の実施ができなかったため、現在は新型コロナウィルス感染症の蔓延が皆保険化の達成過程に与えた影響や、人々の医療施設選択行動に与えた影響を検証できるよう質問票を改定しつつ、調査の再開時期を模索している。また、インドシナ半島の3ヵ国で実施を予定している3か国ほぼ統一スタイルの医療施設調査および医療従事者調査に関してはそれぞれの国のカウンターパートとオンラインで連絡をとっているものの調査の実施時期については見通しが立たない状況が続いている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も引き続き既存データとこれまでに実施した独自調査データを使った分析ならびに論文の執筆、研究発表を進めていく。同時に、2021年に実施を予定していたベトナムにおける第3回の家計調査、医療施設調査の準備も進めていく。現在、調査実施の現地カウンターパートであるフエ医科薬科大学とオンライン・ミーティングを継続しており、調査時期を検討しているところである。 他方、3ヵ国(ベトナム、ラオス、カンボジア)で実施を予定している第一次医療施設における独自調査については、大幅な見直しが必要である。これまでに準備を進めてきた調査内容は医療サービスの供給面については、(1)基礎的な疾病・疾患に対するプライマリー・ヘルス・ケア、(2)妊娠・出産などの母子保健に関するヘルスケアに焦点を当てた質問票の作成を進めてきた。しかしながら、特に(1)については2020年に国際的に急速に広まった新型コロナウィルス感染症の感染拡大により調査内容の大幅に変更を余儀なくされている。今後も各国における感染者数の推移を見守っていく必要があるが、第一次医療施設においても、高熱等の症状で来院してきた患者に対応する体制を構築している。加えて、感染拡大を予防するために医療従事者が予防行動をとる必要がある。各国でどの程度そうした体制が構築できたのかについても検証を行いたいと考えている。現在、各国のカウンターパートは通常の生活を取り戻すべく様々な対策を講じている。そうした彼らの対策がどの程度上手く機能しているのかを検証することは彼らにとっても喫緊の課題である。こうした調査を、ベトナムのカウンターパートであるフエ医科薬科大学、ラオスのカウンターパートである国立感染症研究所、カンボジアのカウンターパートである国立公衆衛生局とも緊密に連携をとりながら準備を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の全世界的な蔓延により、日本人研究者が現地調査に同行できないだけでなく、現地のカウンターパートスタッフによる活動も大きく制限され、これまでのところ新たな現地調査を実施することができない状況が続いている。そのため、調査実施の準備のための海外渡航および調査実施のための予算が未使用のままとなっている。 しかし、ベトナムにおいては既にフエ医科薬科大学とは複数年に渡る協力関係にあり、信頼関係の構築もできており、新型コロナウィルス感染症の蔓延が終息すれば、調査を再開する準備も整っている。また、ラオスのカウンターパートである国立感染症研究所、カンボジアのカウンターパートである国立公衆衛生局とも適宜連絡をとりながら調査実施の可能性を探っている。
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