本研究は「災害、グローバル化、政治変動などによる経済ショックによって、企業や個人などの経済主体の多層ネットワークがどのように変化し、その変化が経済主体の意思決定や経済パフォーマンスにどのように影響するか」という問いを、世界の上場企業を中心としたサプライチェーンや資本所有ネットワークに関する大規模なデータや開発途上国で収集した農家世帯の社会ネットワークのデータなど、様々なデータを利用して明らかにするものである。研究期間を通して、シドニー大学(オーストラリア)、漢陽大学(韓国)、アルシ大学(エチオピア)との共同研究によって、6本の査読付き国際学術誌掲載論文、3本のディスカッションペーパーを発表した。特に明らかとなったのは、経済変動による影響はサプライチェーンや情報ネットワークなどの多層に形成されたネットワークを伝わって伝播するが、多様なネットワークを持っている経済主体ほどその負の影響を緩和することができるということである。また、様々なグループ間の交流を深めることで多様なネットワークは構築されることもあるものの、場合によってはむしろネットワークを閉鎖的にしてしまうこともあることが示唆されている。 今年度は特に、これらの成果をまとめ、政策や企業経営に対して提言を行うためのポリシーディスカッションペーパーを日英両語で発表した。さらに、シドニー大学と共同で、国際貿易ネットワークに関するサーベイ論文を書籍の1章として発表した。学術的な成果に基づくこれらの提言は、米中の分断や経済安全保障のためにグローバル化が停滞もしくは縮小している現在、社会に対して一定の貢献が期待できる。
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