研究課題/領域番号 |
18KK0065
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
草原 和博 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (40294269)
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研究分担者 |
池野 範男 日本体育大学, 児童スポーツ教育学部, 教授 (10151309)
川口 広美 (前田) 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (80710839)
渡邉 巧 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (00780511)
金 鍾成 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (90825837)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | 主権者教育 / 政治教育 / 歴史教育 / オーストリア / ボイテルスバッハコンセンサス / 政治的中立性 |
研究実績の概要 |
本科研では,政治教育の改革で成果を上げてきたオーストリアの「歴史・社会・政治科」の取組に注目し,同国における政治教育の成立条件を究明するとともに,政治問題の扱いを忌避する傾向にある日本の社会科教育(主権者教育)の改善・改革に示唆を与えることを目的とする。この目的を達成するために,以下の研究に取り組んできた。 1・2年次は,ウィーン市内及びグラーツ市内のギムナジウム4校の教育実践と教師の政治教育観及びボイテルスバッハ・コンセンサス理解の調査を,2019年3月の第1期,2019年5月の第2期,2019年11月の第3期に分けて実施した。延べ30日程度の調査を実施できた。 3年次は新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて,研究の中間的な取りまとめと成果発表に専念した。具体的には,広島大学教育ヴィジョン研究センターと連携して,①2020年6月「教師の政治的中立性」,②2020年9月「歴史と政治の統合カリキュラム」と③「概念ベースの授業構成」,④2020年11月「選挙前・選挙後の教育」,⑤2021年2月「中等教育修了資格と評価」について発表した。4年次は引き続き新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて,2021年8月にオンラインセミナーを開催した。「オーストリアの教師の声を聞く」と題して,オーストリアの実践者3名が自らの教育観(rationale)と実践を報告するとともに,それに対してオーストリアの研究者が制度・思想の背景解説をしたり,日本の研究者がコメントをしたりした。 5年次は,渡航制限等の制約をみながら現地調査の再開が課題となる。①大学進学を主としない職業系学校の「歴史・社会・政治科」の追加調査を行う,②現実社会のアクチュアルな課題と学校カリキュラム,教師・子どもの実践との関係を把握し,社会の動きと学校との関わりを体系化する,③これらの成果を書籍出版すること,が課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きくは3点理由がある。 第1に,ウィーン大学のAlois Ecker教授,グラーツ大学のGeorg Marschnig講師と協力し,オーストリア国内で4年次にわたって現地調査を実施できたからである。カウンターパートの連携協力関係は良好である。これまで述べ30日程度滞在し,25時間以上の授業記録と教員への聞き取りデータを収集できたことは特筆に値する。 第2に,2021年8月にオンラインで成果報告会を開催し,現地の教員・研究者と意見交換を行うことができたからである。3年次の中間報告会では,日本側の視点からしか観察結果を報告できなかった。4年次の成果報告会では,オーストラリアの視点を含めて双方の見方を共有することができた。 第3に,過去4年間の成果を基盤に,学会・セミナーでの発表8本,弁護士会等での講演1本,学会誌等への採択3本,書籍の分担執筆2本にまとめることができたことである。渡航が制限されるコロナ禍ではあったが,これだけの成果が発表できていることは,当初の計画以上の進捗である。とくに教師の政治的中立性観や概念ベースの授業構成,教員養成の改革論等を発表できた意義は大きい。 なお,3・4年次に実施予定だった現地調査はコロナ禍で渡航できず,すべてキャンセルとなった。教師の政治意識や歴史意識の調査,異なる学校種(特に職業系学校)での調査等では遅れが出ている。 これらの点を考慮して,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
5年次は,以下の研究を遂行する。 第1に,現地調査の継続である。職業系学校を含めて「歴史・社会・政治科」の授業が現代社会の動向を受けてどのようにカリキュラムデザインされているかを究明する。とくにウクライナ・ロシア戦争などを時事的な問題を,歴史教育として,政治教育としてどのようの引き受けて教室空間を構成しているかを解明する。そのために,2022年5月と2022年9月に追加調査を計画している。 第2に,現地の研究者と実践者を日本に招聘して行う研究協議である。オーストリアの調査から明らかとなった日本の学校教育・歴史教育を政治化していく方策(研究上の示唆)を,オーストリアの関係者とともに検証していく。そのために,2022年8月と2023年1月に日本の学校教育の現場を協働して観察し,政治化を拒んでいる要因を捉えていく。 第3に,5年間の成果を書籍として出版することである。共同研究者も執筆者に加えて,オーストリアの「歴史・社会・政治科」の①理念・目的,②カリキュラム,③授業構成,④評価,⑤教員養成の各論を実践ベースで記述し,それをもとに理論体系を再構成した書籍を出版する。あわせて教室空間に現実社会と同様の意見の対立・相違を現前化させる方策(政治化)を提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症拡大にともなう海外渡航制限により,旅費を執行することができなかった。次年度は,以下のとおり使用する計画を持っている。 (1)派遣旅費:10日程度の現地派遣(追加調査)を延べ6名(600千円×6名)3,600千円 (2)受入旅費:7日程度の日本招聘(協働調査)を延べ4名(450千円×4名) 1,800千円 (3)消耗品(21千円)及びインタビューの文字起こし(12千円×10名) 141千円
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