研究課題
これまで心理学では、数秒から数分の時間認識について研究が行われ、時間に関する仮説が積み重ねられてきた (Buhusi & Meck, 2005)。しかしながら、動物の時間認識を検証するために用いられてきた従来のオペラント条件づけ手続きは、訓練に長期間を要し、動物が課題中に自由に行動できるために時間認識と行動表出の側面が混同されるといった問題点を包含していた (Machado & Keen, 1999)。この問題を解決するため、申請者は近年、動物の時間認識を効果的に調べる画期的な手法を開発した 。頭部固定されたマウスを用い、リッキング(舐める行為)を反応として利用することで、身体運動の要因をできる限り排除し、試行ごとの動物の主観的な時間認識の開始と終了のタイミングを計算理論によって切り出すことに成功した。数ヶ月以上の訓練を要した従来のオペラント課題に比べ、本課題では、1-2週間の訓練によって、マウスの時間認識を検出することができる。今回の研究計画においては、新しい行動実験系を主軸に据えて、行動の出力として直接的な運動制御を担っている皮質下の領域から、認知機能を担っていると考えられる大脳皮質へと投射元を辿っていくことによって、「運動」と、「時間」の認知情報を処理している神経生物学的基盤を分離し、時間情報が生成される過程について明らかにすることを目的としている。これまでに頭部固定と自由行動下の両方における古典的条件づけ課題の装置を整備し、実験を軌道に乗せており、今年度は最初期遺伝子の発現を全脳で調べることによって、時間認識に関わる領域を同定した。オプトジェネティクスやケモジェネティクスによる神経活動の操作も稼働しており、さらなる研究の発展のために細胞種選択的ないし経路選択的な操作を可能するために各種の遺伝子改変マウスを導入した。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、頭部固定と自由行動下の両方における古典的条件づけ課題の装置を整備し、実験を軌道に乗せている。オプトジェネティクスやケモジェネティクスに関しては、AAVウイルスベクターと遺伝子改変動物を導入し、細胞種や経路選択的な操作が可能になっている。国際共同研究としての成果は、共著論文が受理され、他の論文も執筆中である。国内の共同研究については、継続的に神戸大学の橘吉寿博士、筑波大学の櫻井勝康博士と連携して、研究代表者からは行動実験のノウハウや解析技術を提供しながら、橘博士からは脳定位固定手術や電気生理学的手法についての情報提供を、櫻井博士からはウイルスや遺伝子改変動物に関する情報提供を受けており、相補的な関係で異分野融合的な研究を進めている。こうした進捗状況から、本研究課題の進捗状況に関しては、おおむね順調に進展していると考えている。
画像解析による行動の自動分類技術に関しては、薬理学的な手法を用いてその有用性を確認しており、今後は実験心理学的な課題、および神経生物学的な操作・計測技術と融合させていきたい。異分野融合的なアプローチによって、行動の心理学的・神経生物学的なメカニズムについての解明が進むだけではなく、心理学・神経科学の新しい地平線を切り開いていくことができると考えている。特定の神経細胞にCreを発現したマウスやラットを新しく導入したことによって、細胞種とその入出力経路を選択的に同定し、行動と特定の細胞種・経路の関係について明らかにしていくことが可能になった。解剖や組織染色に関しては、共焦点顕微鏡の整備も行い、稼働しており、今後も継続してそうした解剖・免疫組織科学方面の研究も並行して進めていく。アメリカ・デューク大学との国際共同研究は、現在も継続中である。国内の共同研究については、神戸大学の橘吉寿博士、筑波大学の櫻井勝康博士と連携して研究を進めている。行動の分析技術などを提供しながら、橘博士からは脳定位固定手術技術についての情報提供を、櫻井博士からはウイルスや分子生物学に関する情報提供を受けており、相補的な関係で研究を進めており、今後は、こうした共同研究としての成果も期待できると考えている。
年度末が近くなった状態で新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が始まり、当初予定していた研究や学術集会への参加が困難になったため、一部の研究費を繰り越すことになった。研究関連の薬品などが不足しており、次年度に物品費などに用いることによる効果的に使用していく予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)
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