研究課題/領域番号 |
18KK0076
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
横谷 尚睦 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (90311646)
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研究分担者 |
寺嶋 健成 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (20551518)
水口 佳一 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (50609865)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | エキゾティック超伝導 / 電子構造 / 局所構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、実験的な制約のために電子構造研究の難しいエキゾティック超伝導候補物質の電子構造(および必要に応じて局所構造)を、顕微ARPESを主とした先端顕微分光によって明らかにすることを目的としていている。2020年度は以下に記す研究を進めた。 chiral d-波超伝導候補物質SrPtAsの軟X線ARPES実験により得られたフェルミ面およびバンド構造に対してモデル計算との比較を行い、超伝導機構の絞り込みに重要な各フェルミ面における層間のホッピングパラメータとスピンー軌道相互作用の見積もりを継続してすすめた。 新層状超伝導体NaSn2(As2-xPx)系の電子構造および局所構造の解明に向けて、関連する超伝導体の開発をすすめた。また、ローマ大学との共同研究を行うために、新たにBiCh2系ネマティック超伝導体と高エントロピー合金型超伝導体の開発も行い、共同実験の準備を行った。 異常な超伝導物性を示すMNCl(M=Hf, Zr, Ti)の母物質の一つであるTiNClについて、昨年度の顕微光電子分光実験で観測された放射光照射による金属化に関して、論文にまとめ投稿した。さらに、TiNClの合成方法のわずかな違いが超伝導転移温度に大幅な影響を与えることを発見した。この起源を調査するために、複数の光源を用いた光電子分光測定及び脱離ガス分析を行い、超伝導転移温度の減少には水素が関与していることを示唆する結果を得た。さらに、NaxTiNCl(x=0~0.4)について、電子構造パラメータの見積もりを行うために硬X線光電子分光測定を行い、実験結果に対する解析を進めた。 Snの原子価スキンプに伴う負のUによる超伝導が議論されているAg1-xSn1+xSe2超伝導体については、スペイン放射光施設ALBAにおいて行ったEXAFS実験結果に対する解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、フォノン以外を電子対形成の媒介力とするエキゾティック超伝導の候補物質で、実験的な制約により電子構造の明らかになっていない超伝導体の電子構造、および必要に応じて局所構造を、第三世代放射光の先端顕微分光装置を活用して明らかにする。具体的には、(A) chiral d-波超伝導候補物質SrPtAsのフェルミ面およびバンド構造、(B) 新層状超伝導体NaSn2(As2-xPx)系の電子構造および局所構造、(C) 異常な超伝導物性を示すMNCl (M = Hf, Zr)のフェルミ面およびバンド構造を実験的に明らかにする。これらの研究をローマ大学Saini 教授およびヨーロッパ放射光施設の研究協力者と共同で行うことにより国際共同研究を加速する。 (A)については、SrPtAsのバンド構造とフェルミ面の観測に成功し、解析を進めている。(B)については、母物質NaSn2As2のSn-As、Sn-Sn、As-Naの各結合の特徴及びその温度依存性を明らかにするとともに、バンド構造およびフェルミ面の観測にも成功した。(C)については、研究を進めている途中であるが、TiNClの強相関効果を示唆する結果が出るなど研究が進展するとともに、軟X線による金属化を発見するなど新たな展開も生まれている。これに加えて、エキゾティック超伝導候補物質AgSnSeの局所構造の研究も開始し進行中である。ただし、コロナ禍で海外放射光を利用した国際共同研究が実施できなくなっていることも考慮し、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度であるため、継続している研究をまとめ論文化することに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発令により出張が減ったため、次年度使用額が生じた。旅費の一部として利用する計画だが、状況が改善されない場合には実験室での研究消耗品として使うことになる。
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