研究実績の概要 |
本研究では、実験的な制約のために電子構造研究の難しいエキゾティック超伝導候補物質の電子構造(および必要に応じて局所構造)を、顕微角度分解光電子分光(ARPES)を主とした先端顕微分光によって明らかにすることを目的としていている。2020年度は以下に記す研究を進めた。 chiral d-波超伝導候補物質SrPtAsの軟X線ARPES実験により得られたフェルミ面およびバンド構造に対してモデル計算との比較を行い、超伝導機構の絞り込みに重要な各フェルミ面における層間のホッピングパラメータとスピンー軌道相互作用の見積もりを継続してすすめた。 新層状超伝導体NaSn2(As2-xPx)系の電子構造および局所構造の解明に向けて、関連する超伝導体の開発をすすめた。また、ローマ大学との共同研究を行うために、新たにBiCh2系ネマティック超伝導体と高エントロピー合金型超伝導体の開発も行い、共同実験の準備を行った。 異常な超伝導物性を示すMNCl(M=Hf, Zr, Ti)の母物質の一つであるTiNClについて、昨年度行った硬X線光電子分光(HAXPES)実験により得られたNaドープ量に伴う電子構造の変化および、TiNClの合成方法のわずかな違いが与える超伝導転移特性の大きな変化に関して、それぞれ論文にまとめ投稿した。 BiS2系超伝導体で伝導BiS2面を4層有するLa2O2Bi2Pb2S6-xSex超伝導体の真空紫外線ARPES測定およびPE測定を行なった。電子ポケットを観測することに成功し、フェルミ準位近傍の電子状態が低温で減少することを観測した。 Snの原子価スキンプに伴う負のUによる超伝導が議論されているAg1-xSn1+xSe2超伝導体については、スペイン放射光施設ALBAにおいて行ったEXAFS実験結果に対する解析を終え、論文投稿の準備を進めた。
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