研究課題/領域番号 |
18KK0078
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝至 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (00192617)
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研究分担者 |
鬼丸 孝博 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (50444708)
石井 勲 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (20444713)
志村 恭通 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (10713125)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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キーワード | 多極子格子相関 / 新奇chiral量子状態 / 2チャンネル近藤効果 / chiralソリトン / 量子臨界 / 磁気相図 / 極低温熱膨張磁歪測定 / 超音波分光 |
研究実績の概要 |
①NdCo2Zn20の磁場中超音波実験結果から磁場によらない弾性ソフト化を見出し,量子力学的解析から単サイトの結晶場効果によらないことを明らかにした。NdRh2Zn20では巨大振幅原子振動(ラットリング)に起因した測定周波数依存性(超音波分散)を見出した。②Zherlitsyn博士,Andreev教授らとの共同研究でf電子化合物Nd3Ru4Al12,Er3Ru4Al12やU2Rh2Snの電子状態を明らかにし,学術論文として公表した。U2Rh2Snの論文はPhysical Review B誌のEditors' Suggestionに選ばれた。またNd3Ru4Al12とUCo1-xOsxAlでは,これまでに報告されていないラットリングに起因した超音波分散を見出し,学術論文として公表した。 ③独・アウクスブルク大学のGegenwart教授と共同研究し、Pr希薄系Y(Pr)Ir2Zn20と4f3配位系反強磁性体NdCo2Zn20の熱膨張と磁歪ならびに磁気熱量効果を測定した。Y(Pr)Ir2Zn20の結果は、結晶場とゼーマン効果を考慮したモデルに計算で再現できた。一方、ゼロ磁場での体積熱膨張係数は、低温に向かって0.1 K以下まで発散的に上昇する。NdCo2Zn20の熱膨張係数は、ネール点近傍でシャープな異常を示し、磁場中では平均場的な振る舞いに変化した。一次転移を誘起している磁気揺らぎが、磁場により抑制されたと考えられる。また、英・ISISにて、NdCo2Zn20と非クラマース系PrMgNi4の非弾性中性子散乱を行った。結晶場準位間の磁気励起の温度変化を観測し、結晶場基底状態を同定した。④イギリスのラザフォード・アップルトン研究所にて、中性子非弾性散乱実験を行い、立方晶の希土類化合物PrMgNi4とNdTr 2Zn20 (Tr = Ir, Rh, Co)の結晶場準位を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①NdCo2Zn20では単サイトの結晶場効果によらない弾性ソフト化を明らかにした。回転応答測定装置開発では,Zherlitsyn博士と議論しながら試行実験を重ねている。PrT2Zn20の回転不変性効果の解析から回転不変性効果で説明出来ない回転応答を見出して多極子・格子相関による磁場誘起の新奇Chiral量子状態の可能性を明らかにし,その結果は学術論文として準備中である。 ②四極子が活性となる格子系のPrr2Zn20に引き続き、Y(Pr)Ir2Zn20の熱膨張と磁歪を測定した。格子系と希薄系の比較により、Pr間の四極子相互作用とPr単サイトの寄与を分離することができた。特に、Pr希薄系では単サイトの2チャンネル近藤効果の可能性も指摘されているので、現在理論モデルによる検証を行っている。NdCo2Zn20については、磁気転移が反強磁性の平均場モデルから期待される振る舞いとは異なることが明らかとなった。相転移の発現機構を明らかにするために、結晶場基底状態と磁気構造の関係について検討している。NdCo2Zn20とPrMgNi4の非弾性中性子散乱では、明瞭な磁気励起が観測され、結晶場基底状態はそれぞれGamma6二重項とGamma3二重項であることが分かった。③YbCo2Zn20の超重電子状態が元素置換に敏感であるという実験事実をもとに、Ybのもつ乱れに敏感な多極子が超重電子状態の形成に関与していることを主張した論文を投稿し、現在掲載決定直前である。そして、アウグスブルグ大学との共同研究で、Ceの価数揺動物質CeIrSnにおいて、2 K以下で通常の価数揺動系では見られない負の磁歪と熱膨張を発見した。特に今年度は異方性などの詳細なデータを集め、論文化に向けて準備中である。 以上の成果は,研究計画調書に記した計画が順調に進行していることを明確に示している。
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今後の研究の推進方策 |
①希土類Chiral金属DyNi3Ga9について回転応答を測定して回転対称性の自発的な破れの可能性も検証する。Chiral螺旋磁気秩序が既に報告されているYbNi3Al9についても同様に回転応答を測定する。②NdT2Zn20 (T: Co, Os, Ir)の系統的な超音波実験を行い,NdCo2Zn20の単サイトの結晶場効果によらない弾性ソフト化の起源や,2チャンネル近藤効果に起因する弾性異常の有無を明らかにする。③回転応答測定装置開発をZherlitsyn博士と継続して行う。立ち上げ次第,希土類Chiral磁性体や希土類カゴ状化合物について回転応答測定を行う。 ④Pr系の非フェルミ液体的挙動について系統的に理解するために、Pr組成が異なる単結晶を用いて熱膨張と磁歪を測定する。非フェルミ液体的挙動が、Pr組成ごとの特性温度を用いてスケールできるか検証し、電気抵抗率や比熱、弾性定数との相関を捉える。また、NdCo2Zn20のNd希薄系の熱膨張と磁歪を測定し、Nd間の相互作用を抑制した場合の磁気揺らぎを捉え、単サイトの2チャンネル近藤効果の可能性について考察する。PrMgNi4については、結晶場基底状態が非磁性二重項であるにもかかわらず、相転移が観測されていない。単結晶の純良化や元素置換などを行い、低温物性について調べる。⑤YbCo2Zn20の乱れに敏感な重い電子状態を制御するには、等方的な静水圧ではなく異方的な一軸歪が有用であると考えられる。そこで試料の純良化の後、希釈冷凍機を用いた一軸応力下での磁化測定を行う。さらに、常圧での熱膨張測定から強い一軸圧効果が予測されている反強磁性体NdCo2Zn20に対しても同様の磁化測定を実施する予定である。またアウグスブルグ大学では一軸応力下での熱膨張測定が可能であるため、上記の物質に対して実施し、熱測定と磁気測定の両面から基底状態に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による被害拡大により、海外渡航が困難になり、本研究費で計画していたドイツのアウグスブルグ大学での実験を延期せざるを得ない部分があった。次年度以降、できるだけ早い時期に実験を行う計画である。
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