研究課題/領域番号 |
18KK0082
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹田 敦 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (40401286)
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研究分担者 |
MARTENS Kai 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (20535025)
風間 慎吾 名古屋大学, 高等研究院(素粒子), 特任助教 (40736592)
伊藤 好孝 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (50272521)
森山 茂栄 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (50313044)
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研究期間 (年度) |
2019-02-07 – 2022-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 中性子バックグラウンド / 反同時計測 / ガドリニウム / 中性子捕獲反応 |
研究実績の概要 |
2020年度は、イタリア・グランサッソ国立研究所の地下実験室に中性子カウンターを設置する作業が行われた。水ガドリニウム水溶液を利用したチェレンコフ型カウンターでは、部材の錆等に起因する水中のチェレンコフ光に対する透過率の低下を最小限に抑えることが重要となるため、主にステンレスで構成されている水槽内の検出器を含む全表面の不働態化処理が、反応時間の最適化や処理後の防錆性の確認などについて日本におけるモックアップ試験によって確立された手法を用いて行われた。新型コロナウィルスの影響で日本から研究者を送ることが難しい状況の中で、ウェッブカメラを駆使して現地の研究者に指示を与えながら不働態化作業が遂行された。その後、カウンター内部にレーザー光を照射することで水中の光学パラメータをモニターするために日本で開発されたシステムを含む中性子カウンター装置一式が水槽内に設置され、水槽内を純水で満たした状態での動作試験を経て装置が問題無く稼働していることが確認された。水槽外に構築されるガドリニウム水溶液純化システムについても設置準備が行われ、日本で開発されたガドリニウム水をサンプルし、チェレンコフ光波長に対する吸収長を高精度でモニターするためのシステムも現地に移送された。 装置の設置と並行して、これまで開発が続けられていたモンテカルロシミュレーションのコードについても、中性子カウンターの実際の装置形状、とくに光電子増倍管の光電面周りの形状を中心に精密なチューニングが行われ、暗黒物質探索の最終バックグラウンドとなるタイムプロジェクションチェンバー有効領域内で1回反応した中性子に対する中性子カウンターによる検出効率についての系統誤差を含む詳細な評価が行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中性子カウンターの設置作業は、新型コロナウィルスの影響で日本から現地に赴くことのできない厳しい状況下でありながら、装置が設置された水槽内部のステンレス部材表面の不働態化処理の手法を日本国内におけるモックアップ試験を経て確立するとともに、カウンター内部にレーザを入力して光学パラメータをモニターするシステム、水槽内のガドリニウム水をサンプルしてチェレンコフ光波長に対する吸収長をモニターするシステムならびに放射性不純物量を高感度にモニターするシステム等を日本国内で開発し現地に移送することで効率的に推進され、純水中での動作試験までが問題無く遂行された。シミュレーションコードについても、光電子増倍管の光電面周りの改良や各センサーからの精密な波形の取り扱いをベースにした開発が日本国内を中心に順調に進められている。 現在、タイムプロジェクションチェンバーのコミッショニングが行われており、暗黒物質探索のデータ収集開始に向けての各種パラメータの調整および、液体キセノン中の不純物を除去するシステムの最適化等が行われている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、中性子カウンターを純水で満たした状態での暗黒物質探索データ収集を行う。XENONnT検出器は、これまでのXENON1T検出器に比べて4倍以上の有効質量があるため、半年程度の探索で既存の統計量の2倍を超える探索が可能である。また、本研究で最適化が進められた中性子カウンターは純水であっても高い中性子veto効率を有するため、XENON1T検出器では除去できなかった中性子起源のバックグラウンドの除去も可能である。 それらのデータ収集を通して、キャリブレーションデータと合わせることで中性子カウンターの応答を詳細に理解し、十分小さな系統誤差で中性子由来バックグラウンドを除去する手法を確立した後、純水をガドリニウム水溶液で置き換えることにより、当初の計画通り中性子バックグラウンドを約1桁低減し、世界最高感度での暗黒物質探索を遂行する予定である。 そのために必要な極低放射性不純物ガドリニウムパウダー3.4トンの調達と、水槽外部に設置されるガドリニウム水循環装置の工場における製造はほぼ完了しており、あとは現地での調整作業を残すのみとなっている。引き続き新型コロナウィルスの影響により現地に赴いての作業遂行が困難な状況ではあるが、コミュニケーションツールを駆使して現地の研究者と密に連携をとることで本研究を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で目標とされていた暗黒物質探索実験の高感度化のための中性子vetoカウンターの開発については、COVID-19による深刻な影響があったにもかかわらず、オンライン機器を駆使した現地研究者との綿密な連携により当初の予定通りに検出器水槽内へのカウンター一式の設置と動作確認が完了し、純水中での稼働が順調に開始された一方で、タイムプロジェクションチェンバーによる暗黒物質探索データ収集の始動が当初予定より遅れたこともあり、2020年度に予定していたイタリア・グランサッソ国立研究所への出張のいくつかがキャンセルされたため、当初予定していた旅費の多くを2021年度の使用へと持ち越さざるを得なかった。現在ではタイムプロジェクションチェンバーの調整も完了し、2021年度内に暗黒物質探索データ取得の開始が計画されていることから、ワクチンの普及による活動制限緩和の下で世界最高感度での暗黒物質探索を遂行する予定である。また、たとえ活動制限緩和が失速したとしても、2020年度の実績からオンライン機器を駆使した現地研究者との綿密な連携で、予定通り暗黒物質探索が遂行される見込みである。
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