研究課題/領域番号 |
18KK0087
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
荻津 透 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 教授 (30185524)
|
研究分担者 |
飯尾 雅実 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 研究機関講師 (00469892)
菅野 未知央 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 准教授 (30402960)
吉田 誠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (70379303)
鈴木 研人 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 助教 (80764878)
雨宮 尚之 京都大学, 工学研究科, 教授 (10222697)
曽我部 友輔 京都大学, 工学研究科, 助教 (40847216)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
|
キーワード | 高温超伝導 / 耐放射線 / 無機絶縁 |
研究実績の概要 |
高温超伝導であるREBCOテープ線材を用いた高放射線環境で高磁場を実現する超伝導磁石実現のための研究開発を継続中。本課題は、米国ローレンスバークレー 国立研究所(LBNL)とブルッ クヘブン国立研究所(BNL)と共同で先導的な国際共同研究を行ってきた。令和2年度は、引き続きREBCO線材およびセラミックコー ティング無機絶縁の耐放射線性を確認する試験を行った。中性子照射による放射線耐性試験は、昨年度に1022 n/m2オーダー照射で超伝導性の消失を確認したHTS線材で、原因調査のためX線回折による構造解析行う事とし、未照射サンプルで装置のコミッショニングを行い予想される角度にGdBCOのピークが観測できることを確認した。ベルギーのBR2で照射が行われた熱中性子の効果や1021 n/m2オーダーの照射の効果を調査するサンプルは、COVID19の影響で日本への到着が大幅に遅れたために令和3年度に特性評価を行う予定である。また、γ線によるREBCO及び絶縁材料の放射線効果を調べるために、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所(QST高崎)のコバルト60ガンマ線照射施設において、0.2, 1, 5, 10, 20 MGyのγ線照射試験を行い特性評価を行ったところ顕著な超伝導性の劣化は観測されなかった。無機絶縁超伝導磁石の基盤技術確立に向け、テープ線材に無機絶縁を連続施工する装置を開発、幅方向で端部が薄くなるが、長手方向に対して40mで±4.3μmの均一性でコーティング膜を成形することに成功した。試作遠景コイルの通電試験を最大500Aまでできる臨界電流測定装置の構築を進めた。また令和2年度に、BNLの試験スタンドに適合するレーストラックコイルの巻き線を行う予定だったが、COVID-19の影響で米国での試験の目途が立たなかったためコイルの製作は令和3年度に持ち越した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
放射線照射試験は、IMR大洗とQST高崎の2か所で行っている。IMR大洗で行っている中性子照射試験では、先行研究で1.8×1022(SP製GdBCO)と2.6×1022 n/m2 (SP製GdBCO、FJ製GdBCO)まで照射された HTSサンプルの特性評価を行い、超伝導性の消失が確認された。中性子照射による超伝導性消失の原因を調べるために新たにX線回折による構造解析を行うことにした。照射サンプルは実用線材であるため、GdBCO層の上部に銀の保護層と銅の安定化層が存在する。まずは非照射サンプルを用いて、外部の金属層を透過して超伝導層のピークが観測できることを確認した。またこれまでと同様のGdBCOサンプルに加え、中性反応断面積が極めて大きいGdの影響を調べるために、FJ製EuBCOサンプルも準備しBR2へと送った。ガンマー線照射に関しては、0.4, 1.1, 5.5, 10.3 MGy照射されたREBCOの超伝導特性評価を行ったところ顕著な超伝導性の劣化は観測されなかった。試作コイルは、BNLの高磁場環境試験装置に合わせて設計を見直し、サポート含めたコイルの設計を進めたが、COVID-19の影響で米国での試験が行えるか判断ができず、国内での実験も視野に入れつつ試験コイルの製作を令和3年度に行うことにした。一方長尺のREBCO線材のセラミック絶縁施工のための施工技術開発は、装置の改良と10m長テープを用いたコーティングトライアルを重ね、最終的に試験コイルに使われる40m長のテープの両面にセラミックコーティングを施すことができた。均一度は表面が38.4±4.3μm、裏面が35.8±4.3μmであった。また京都大学では、安定化銅を付加したサンプルのクエンチ試験を行い、REBCO線材のクエンチ安定性や保護に関して一定の知見を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
IMR大洗において行われている中性子照射試験で、照射量1022 n/m2オーダーでの超伝導性消失が確認、本計画の初年度に照射依頼したサンプルの目標照射量は 1021 n/m2オーダーなので、そのサンプルの試験を令和2年度に行う予定であったが10^21 n/m2オーダーのサンプルはCOVID-19の影響で日本への到着が大幅に遅れたため令和3年度に測定を行うことにする。またウィーン工科大の研究から熱中性子が疑われるので、今後は熱中性子の効果 を中心に研究を行っていく。また、QST高崎において行われたγ線照射サンプルに関しては、引き続き10MGy以上のREBCOサンプルの超伝導特性へを調べると共にセラミックコーティングの耐電圧性能と剥離強度への影響も調べる。サブスケールコイルの開発・試験に関して、短尺サンプルでのセラミックコーティング最適化と長尺化へ向けた 研究が行われ、施工装置および基礎的な技術が確立された。令和3年度に試験用のレーストラックコイルの製作を行う。また、令和3年度にBNLで行う予定であった高磁場励磁試験はCOVID-19の影響で目処型立たない状況なので令和3年度は国内での励磁試験を行う。一方別の外部資金による研究の継続の目処が立ったので引き続きBNLでの試験を目指していく。これらと並行してセラミック絶縁REBCO線材のクエンチ特性をマグネット運転安定性やクエンチ保護の観点から京都大 学およびLBNLで行なっていく。特に京大およびLBNLでは本研究とは別に各種HTS線材に関してクエンチ特性の検証を行なっているのでこれらの先行研究と比較することによって本研究でのセラミック絶縁コイルの特異性を検証していく。これらを通して高放射線環境で高磁場が実現できるREBCO線材による加速器科学用超伝導マグネットの実現に向けた基盤技術の確立を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により計画に各種障害が生じた。一つはベルギーの原子炉で行っていた中性子照射のサンプル輸送の遅れでこれにより照射済みサンプルの試験が行う事ができなかった。また照射済みサンプルの試験が行える東北大学の大洗センターへの立ち入りにも制限がかかったこともあって大幅に試験が遅れている。また新たに協力を得たBNLに設置されている高磁場環境試験装置でコイルの試験も、BNLを直接訪問して設計詳細を詰める事が困難になった為、コイルの設計製作にも遅れが生じている。このためコイル設計や試験セットアップの見直しのために研究スケジュールに変更が生じた。これらの理由から、次年度使用額が生じた。
|