研究課題/領域番号 |
18KK0090
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
秦 和弘 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 助教 (60724458)
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研究分担者 |
田崎 文得 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 特別客員研究員 (10800609)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 電波天文学 / VLBI / ブラックホール / ジェット / 活動銀河核 |
研究実績の概要 |
巨大ブラックホール(BH)から噴出する相対論的ジェットの生成・加速機構の解明は天文学における究極的課題の1つである。本研究ではM87など重要天体を対象に、1ミリ帯国際VLBI(EHT)による根元の観測と、欧州まで拡張した東アジアVLBI(EATING VLBI)による下流の高頻度モニターを組み合わせ、ジェット加速領域の観測的解明および駆動理論の検証を試みる。 本年度は新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた海外研究機関への渡航などが全てキャンセルになるなど、研究計画を大きく変更せざるをえないチャレンジングな状況が続いた。それでも、EATING VLBIについてはコロナ禍でも運用が可能な局が参加してリモートでM87観測を継続するなど、新たな工夫を重ねて新しいデータを引き続き得ることができたのは大きな進歩であった。また本研究課題のパスファインダーとして過去に取得していたEAVN/EATING観測データについては解析が順調に進み、特に2017年に取得されたEHTとEAVNを含む多波長合同観測キャンペーンの観測成果はついに査読論文としてまとめられ、出版された。本成果は秦が国際多波長チームの論文取りまとめ役の一人として主要な役割を果たしたものであり、記者発表も行うなど、EHTとEAVNの合同研究のインパクトを示す重要な成果となった。また、田崎がこれまで大きな貢献をしてきたEHT 2017年観測の偏光データの成果についても出版され、大きな注目を浴びた。また、昨年度本科研費を使用して秦がイタリア滞在中にIRA研究者と新たにスタートしたEAVNによる遠方ブレーザーの合同研究成果も査読論文として出版されるなど、国際共同研究の裾野を更に広げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた海外研究機関への渡航などが全てキャンセルになるなど、研究計画を変更せざるをえない厳しい状況が続いている。それでも、EATING VLBIについては望遠鏡のリモート運用でM87観測を継続するなど、新たな工夫を重ねて新しいデータを引き続き得ることができたのは大きな進歩であった。また本研究課題のプレスタディとして過去に取得していたEAVN/EATING観測データについては解析が順調に進み、特に2017年に取得されたEHTとEAVNを含む多波長合同観測キャンペーンの観測成果は査読論文として出版された。本成果は秦が国際多波長チームの論文取りまとめ役の一人として主要な役割を果たしたものであり、記者発表・プレスリリースも行うなど、国際的にも大きな注目を浴びる成果となった (EHT MWL SWG et al. 2021)。また、田崎がこれまで大きな貢献をしてきたEHT 2017年観測の偏光データの成果についても出版され、大きな注目を浴びた (EHT Collaboration et al. 2021a,b)。また、昨年度本科研費を使用して秦がイタリア滞在中にIRA研究者と新たにスタートしたEAVNによる遠方ブレーザーの合同研究成果も査読論文として出版された (Hada et al. 2020)。 以上を総合すると、当初の研究計画からは変更があったものの、関連研究において複数の重要論文を出版できたことを踏まえ、研究全体としては概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は本研究最終年度である。新型コロナウイルスの影響により当初の研究計画からは大幅な変更を余儀なくされており、引き続き海外渡航の可否は流動的であるが、渡航可能な場合には以下の計画で研究を推進する。 まず、秦は年度前半ではイタリアIRAに滞在し、2018-2021年度にEATINGでモニター観測されたM87を含むジェットのデータをGiovannini氏、Giroletti氏らと共同で解析する。合わせて、過去10年間に欧州VLBI観測網(EVN)で得られたM87ジェット下流の観測データも統合する。データ数が非常に大規模であるため、水沢から大学院生1名も研究協力者として同行する。不運にもEHTとEATINGの同時観測は本研究期間中に実現しなかったが、これまで観測できたEATINGデータとEVNデータを中心にジェットの下流の広範囲にわたる速度プロファイルを導出し、収束・加速の観測結果と比較することで、理論モデルの検証を行い、査読論文としてまとめる。一方田崎はMIT(または状況次第では上海)に数週間程度滞在し、 現地の研究協力者と合同で、2018年に得られたM87のGMVA+ALMA観測データの解析を中心に行う(2018年に観測されたEHTデータは未だ相関処理が行われておらず、今すぐ可能なGMVAデータに取り組むことが最優先と判断した)。特にスパースモデリングを用いた超解像イメージングを行い、BHとジェット生成領域の接合現場を史上初めて明らかにし、磁気流体理論モデルと比較した論文を完成させる。 一方もしも2021年度も海外渡航が困難な場合には、zoom等オンラインで各国の共同研究者とできる限りの議論を進めていく。この場合、予算の一部を用いてVERAバックエンドのアップグレードを行い、将来のEATING国際観測の大幅な性能改善に向け有効活用することも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的流行により、当初渡航予定だった国外滞在がキャンセルされたため。次年度使用額は2021年度後半にパンデミックが収束を迎えた場合には改めて滞在費に使用する予定である。一方2021年度も引き続き海外渡航が難しいと判断された場合には、次年度使用額の一部をVERAバックエンドシステムアップグレードに使用し、将来のEATING VLBI国際観測の性能改善に向け活用する予定である。
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