研究課題
火星は約40億年前には海をたたえたハビタブルな環境を持ち、その後の進化の過程でそれを失ったと考えられている。惑星表層環境を規定する重要な要素である水や二酸化炭素などの揮発性物質の進化を理解するためには、太陽活動に伴って宇宙への大気の散逸がどのように変動するか、を理解することが必須である。本研究は、太陽風から惑星の電離圏までをシームレスにシミュレーション可能な独自の数値実験モデルを軸に、米国NASAの火星探査機MAVENチームとの密接な国際共同研究を実施することにより、火星からの大気散逸が過去の太陽で頻発したと考えられている極端な太陽変動にどのように応答するか、の解明を目指している。特に、MAVEN Participating Scientistとしての国際連携を更に発展させ、MAVEN計画の科学責任者、副責任者の研究協力を得て各観測機器との共同研究の調整・実施するとともに、国際共同チームにより観測と数値実験の比較データ解析共同研究を推進し、国際共同研究を強化する計画である。研究計画第2年度である令和元年度には、昨年度に引き続き、MAVENの科学チームで主導的な役割を果たしているBrain博士(コロラド大ボルダー校LASP)を3ヶ月間余り、研究代表者の所属する東京大学に招聘した。MAVEN探査機のデータ解析を火星からの水と二酸化炭素の散逸に着目して進め、太陽風電場の方向に効率よく惑星起源イオンが加速されることで電離大気散逸を引き起こすプリューム現象に、高い太陽風動圧下では二酸化炭素イオンが寄与することなどが明らかになった。また、昨年度に行ったMAVENの長期観測データの中から、太陽風の代表的な極端現象であるCMEおよび共回転相互作用領域(CIR)イベントの特徴を調べ、数値シミュレーションへのインプットとすべき境界条件を観測に基づいて検討した。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画の研究協力者であり、MAVENの科学研究の中心人物の一人であるBrain博士を、昨年度から継続して約6ヶ月間、研究代表者の所属する東京大学に招聘することができ、密接な国際共同研究をスムーズに実施することができた。また、研究分担者の一人である若手研究者が育児休暇から復帰し、昨年度延期した研究協力者のいるカリフォルニア大学バークレー校への訪問も実施することができ、研究計画全体として、概ね順調に研究計画が進展している。
2020年度からは、これまでに観測にもとづいて選んだ数値シミュレーションにインプットとして与える太陽放射や太陽風のCMEやCIRなどの極端現象時の条件について、数値シミュレーションを実施する。さらに、その数値実験結果を、イオン種毎の応答の違いの調査、および、太陽面爆発に伴う中性大気変化の調査という2項目のデータ解析結果と比較してフィードバックをかけながら、数値モデルの改良を行い、極端現象の記述性を向上させる計画である。この2項目の観測データ解析結果と上述の数値実験結果の比較によって、重要な物理機構を抽出し、数値モデルに含まれていないものがあれば、追加で実装することで数値モデルの現象記述能力を向上させる改良を行う。この際、数値実験結果と観測結果の詳細な比較が必要であり、各項目を国際チームで担当することで、効果的に研究を進める予定である。なお、昨年度までに引き続き、探査機に搭載された複数の科学機器のデータの詳細解析を行うため、複数の観測機器チームメンバーと研究協力を行うことになるため、定期的に行われるMAVEN計画の科学チーム会合(PSG)に参加し、探査機の運用モードや機器毎のデータ較正の状況などを正確に把握するとともに、米国の複数の機器担当者との研究打合せを集中して行う予定である。なお、コロナ渦の状況を鑑み、必要に応じてオンラインコミュニケーション環境の整備を行い、安全面にも工夫して国際共同研究を進めたい。
コロナ渦で、米国で予定されていたMAVEN火星探査機のサイエンスチーム会合が行われなかったため、そのための旅費を次年度以降に繰り越した。また、研究協力者の来日も延期になったため、そのための費用も繰り越したため。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 15件、 招待講演 4件)
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