研究課題
本研究は「全球凍結後の層状化海洋でのエサの増加が多細胞動物の進化を促した」という独自の仮説を検証するために,海綿・刺胞動物由来の痕跡を含む世界各地のクリオゲニア~エディアカラ系堆積岩を対象に多項目の分析を行うものである。本年度はこれまでオーストラリアとモロッコで採集した試料をもとに,詳細な組織観察と同位体分析を行った。オーストラリアからの試料では2つの成果があった。1つの目はスターチアン全球凍結前に堆積した蒸発性炭酸塩の鉱物組成と同位体を分析結果から,当時の海洋に隣接する場所で大規模なアルカリ水塊が発達していたことを明らかにした。もしこの水塊が日本海程度のサイズを持っていたならば,大気の二酸化炭素を2割程度低下することになり,それにより全球凍結につながる寒冷化が起きたとも考えられる。2つ目は,スターチアン全球凍結後の堆積物に含まれる「化石様粒子」を再検討したころである。この粒子には海綿動物特有の直径0.1mm程度の水管構造が認めらるとされていたが,独自に行った3D構造解析からはそのような水管構造は確認できなかった。その代わりに,棘皮動物に見られる0.01mmサイズの細かい空隙があることがわかった。今後はこの空隙の特徴を詳細に調査し,「化石様粒子」の起源を論じていく予定である。モロッコでは中期エディアカラ紀のカスキエス氷期に堆積した熱水成炭酸塩岩についての分析を行った。薄片観察により鉄酸化細菌がつくる構造に加えて海面骨片を類似した構造が確認された。すなわち,この熱水環境は大型動物の生息になっていたと思われる。全球凍結時にも同様の環境が存在したならば「生命の避難場所」として有力であると示唆される。また,マンガンクラストやメタン湧水に関連した微生物群集に関する論文を執筆した。これらの研究は動物進化につながる先カンブリア時代の微生物中心の生態系を考察する上で有用な成果である。
2: おおむね順調に進展している
特にオーストラリアでの研究に進展があった。今年度の成果は「全球凍結がなぜ起きたのか」と「最初の多細胞動物の証拠」いう地球史上の重大な問題に対し解答を与える可能性がある。年度末に予定していた海外調査がコロナ感染拡大防止の観点から中止したことを差し引いても,研究は計画通り進展していると評価できる。
コロナウイルスの問題により状況がやや不透明ではあるが,2020年度は中国とオーストラリアにおいて,トニア紀~エディアカラ紀(8~5.5億年前)の地層の調査と試料採集を実施したい。その上で,1) 海綿動物の痕跡と,2) 全球凍結時の生命の避難場所の探査し,3) 当時の海水の物理化学的条件について考察する。採集した試料の分析作業としては,組織観察,高解像度の元素分布の復元,炭酸凝集同位体を含めた各種同位体分析を行う方針である。また,海外研究協力者である中国科学院の王偉とは軟体部の化石化について議論を進める予定である。
2020年2月に計画していた中国調査が中止となり,実施予定であった掘削試料のサンプリングもできなくなったため次年度使用額が生じることとなった。コロナウィルスの感染が収束することが前提条件になるが,2020年度中に2週間程度の4~5名の人員で中国調査を行う計画である。これに加えて,オーストラリアでの調査を実施する。また,採集した試料の分析を進めるために研究補助要員を雇用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Geochimica et Cosmochimica Acta
巻: 258 ページ: 1-18
doi.org/10.1016/j.gca.2019.05.023
Geosciences
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