研究課題/領域番号 |
18KK0095
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安藤 亮輔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10455256)
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研究分担者 |
Romanet Pierre 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (50829190)
井出 哲 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90292713)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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キーワード | カイコウラ地震 / 地震破壊 / シミュレーション / 連動型地震 / ドローン / 大規模計算 / 活断層 / 微動 |
研究実績の概要 |
本研究は,2016年にニュージーランド南島北部で発生したマグニチュード7.9のカイコウラ地震の発生メカニズム解明を通して,物理モデルを用いた地震発生シミュレータの開発と検証を行うことを目的としている.そのために,(1)地震発生シミュレータの開発・検証,(2)地震データ解析・微動カタログ構築,(3)古地震カタログの構築・現地における野外調査という,3項目の研究を行う.今年度は,項目(1)については,まず大型計算機資源を学際大規模情報基盤共同利用・共同研究の制度によって確保した.シミュレーションによって,カイコウラ地震の主要問題のひとつである複数断層が連動した破壊伝播過程において,震源域中部で北部と南部の大規模な断層をつなぐ位置にある中規模な断層(Whites断層)の寄与を調べた.前年までに構築していた初期モデルの震源域中部の断層形状を一部変更することで検討したが,当該の断層が大きく滑るような物理条件は生じにくいことが分かった.項目(2)においては,地震計の定常観測点のデータを用いて,カイコウラ地震の震源域を含むマルボロ断層帯において,低周波微動とみなされる地震波形記録を発見した.さらに,いくつかのイベントについては,震源決定を行った.項目(3)においては,南島においてニュージーランドのカウンターパートと共同で現地調査を実施し,地表踏査及びドローン測量によって,従来明らかでなかったWhites断層の地震時滑り量を測定した.これにより,Whites断層についてのシミュレーション結果の検証材料となるデータを得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレータの開発では,予定通りに古地震発生履歴を動的破壊シミュレーションの初期条件として考慮するための拡張を行った.それにより,初期応力値の空間的な変化を考慮する準備が整った.また,断層形状モデルの構築については,現地カウンターパートからカイコウラ地震の余震空間分布の最新のデータを入手することが出来たため,それらのこれまで考慮していなかったデータを再現するような,より現実的な断層モデルの構築に着手した.微動波形の解析においては,期待通りに,マルボロ断層帯での微動源の存在を突き止めることができ,より詳細な震源決定を行うことで既知の活断層との関係を調べているところである.2016年以前の地震発生履歴については,現地研究者によって,震源域の主要な断層でトレンチ調査が実施されているところである.また,主要な論点となっているHope断層の地震発生履歴について,既往のトレンチ結果に基づいて地震時の破壊領域の検討を行った.複数断層の連動性のメカニズムについて,震源域中部での破壊が地震波動によって動的に伝搬されたのか,そこに位置するWhites断層が破壊することで伝播したのか,物理モデルのシミュレーション結果を検証するのに,既存の観測データのみでは十分でないという問題が在った.この問題を解決して検証データを得るために,研究代表者と分担者が,現地研究者の協力を受けて地表踏査を実行することで,2016年カイコウラ地震時のWhites断層の地表断層のずれ量が高々1m程度であることを明らかにすることができた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度行ったシミュレーション手法の拡張によって,断層の領域ごとの応力場の不均質性の考慮が可能となった.この機能を使用することによって,Hope断層における応力場の不均質性の効果をシミュレーションによって調べる.既往の古地震調査結果によると,2016年カイコウラ地震の領域では,前回地震からの経過時間が平均活動間隔に達していない可能性が指摘できる.このことを応力レベルに焼き直し,Hope断層の応力レベル初期値をいくつかのパターンで設定することにより,初期応力レベルへの破壊伝播パターンの依存性をシミュレーションによって定量的に評価する.そのことにより,Hope断層の地震後経過率が小さかったために2016年に破壊しなかったという仮説の検証を行う.前年度に調査できなかったWhite断層の南部地域について,現地におけるドローン測量と地表踏査を行い,当該断層全域での地震時変位量の把握を行う.また,現地研究者と緊密に連絡を取り合うことで,古地震履歴についてのトレンチ調査の最新結果を取得する.地震記録の解析については,現地研究者と協力して解析手法の改良を行うことで,モデルの拘束に用いることが出来るように,出来る限り詳細な微動震源の位置決定を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
地表踏査に用いる目的で購入を予定していたドローン(Phantom 4 pro v2)がメーカーの生産の都合により欠品となっており購入できなかった.そのため,前年度に行った現地調査では,別に借り受けたドローンを使用して対応した.その際使用する必要のあったGNSSシステムも同様に借り受けることができたため購入しなかった.これらの物品は,次年度において改めて機種選定を行ったうえで購入する予定である.
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