研究課題/領域番号 |
18KK0096
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
吉田 孝紀 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (00303446)
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研究分担者 |
河上 哲生 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70415777)
江島 輝美 信州大学, 理学部, 助教(特定雇用) (70712173)
齋藤 武士 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (80402767)
酒井 哲弥 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (90303809)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | ベンガルファン / シワリク層群 / ガンジス川 / ブラマプートラ川 / ヒマラヤ |
研究実績の概要 |
ベンガルファン(深海扇状地)には,西ヒマラヤに源を発するガンジス川とチベット・東ヒマラヤから流れるブラマプートラ川の2つの大河に由来する砕屑物が堆積している.2015年のIODP 354次航海によって採集されたベンガルファンの堆積物コアは,これら両大河流域の発達史を保存した,希有な記録媒体である.この研究では,フランス・スイス・インド・ネパールの研究者と研究体制を敷き,ベンガルファンから得られた堆積物コアから両大河が吐出した砕屑物を識別し,漸新世から現在までに両大河の成立時期と土砂運搬量の変遷を明らかにすることを目的としている.これにより東西ヒマラヤでの降水量の変遷を解明し,今日的なモンスーン形成の時期やプロセスを明らかにする. 今年度は,(1)ベンガルファンコアの鉱物グループの識別による供給水系判別,(2)前縁盆地堆積物における河川水系の識別,(3)ヒマラヤ変成岩:低度・高度変成岩のラマン分光分析による砂岩粒子リファレンスの取得,について取り組んだ. (1)では,ガンジス・ブラマプートラ水系のそれぞれを特徴づける鉱物粒子の発見に努め,堆積物コアにおいてその量比の時代的変化を追跡した.特に,超苦鉄質岩やオフィオライト由来の鉱物が手がかりとなり得ることを見いだした.(2)では北インド・東インド,ネパールにおいて前縁盆地堆積物(シワリク層群)の調査を開始し,古期のガンジス・ブラマプートラ両河川に由来する砕屑粒子の探索を行った.その結果,東インドの前縁盆地堆積物においてオフィオライト起源の鉱物粒子が頻繁に含まれることを見いだした.(3)では,前縁盆地堆積物中の岩片粒子を用い,ラマン分光装置を利用して最高履歴温度の推定を開始した.東ネパールの試料を用いて中新世中期の3層準の検討を行い,高度および低度変成岩の両者からの供給があることを見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体として当初計画に沿って順調に実施されている.特に(1)ベンガルファンコアの鉱物グループの識別による供給水系判別,についてはコア資料の詳細な検討によって,これまで報告されていなかった多様な鉱物種が見いだされている.今後,これを現世河川試料と比較することで,河川識別が可能となる可能性がある.この結果は2018年12月に行われたAmerican Geophysical Union Fall Meeting 2018で発表された. また,(2)前縁盆地堆積物における河川水系の識別についてもネパール,西・東インドにおいて野外調査を実施して検討を進めている.東ネパールと東インドにおいて堆積物の詳細な検討が開始されたが,結論を得るまでにはあと1年程度の室内作業と補完的な現地調査が必要である.また,西ネパールでは夏期の大雨によって交通網が寸断されたため十分な現地調査に至っていない.(3) ヒマラヤ変成岩:低度・高度変成岩のラマン分光分析による砂岩粒子リファレンス取得については,東ネパールの前縁盆地堆積物で検討を開始した.ここでは岩片粒子の最高被熱温度と岩石組織・鉱物組み合わせとは良い相関が得られおり,供給源の識別に有効であることが示された. 加えて,中央ネパール・カリガンダキ川に沿ったルートにおいて行われた試料を使用して,ヒマラヤ変成岩:低度・高度変成岩に由来する砂粒子について,今後ラマン分光分析を行う予定である.これによって,砂粒子の起源となる地質体のリファレンスデータ取得について準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
これまでは計画に沿って順調に推移している.そのため,次年度では前縁盆地堆積物とベンガルファン堆積物の双方について,現在の検討に加えてNd-Sr安定同位体比を用いた検討を進める.また,2018年12月にブラジルおよびアメリカの研究グループによって一部の前縁盆地堆積物とベンガルファン堆積物のジルコンU-Pb年代の報告がなされた.そのため,これらの研究と重複する本研究の研究計画の一部を見直し,フランスCNRS,スイスETHの研究者と共に堆積物のNd-Sr同位体比構成について検討を開始することとした. また,現在検討を進めているベンガルファンの堆積物コアはベンガルファン中部の東端に位置するが,2018年12月にドイツの研究グループによって幾つかのハイアタス(堆積物記録の無い層準)がこのコア中に存在することが明らかになった.そのため,掘削位置の異なるサイト1つを選定し,ハイアタスに相当する層準の堆積物記録を補完するために,新たに試料採取を行う予定である. また,(3) ヒマラヤ変成岩:低度・高度変成岩のラマン分光分析による砂岩粒子リファレンス取得については,測定のための準備は完了しているので,次年度中の測定結果取得を目指す.これを東ネパールの前縁盆地堆積物での検討に使用し,前縁盆地堆積物やベンガルファン堆積物での河川系識別に活用する. また,2018年において困難であった西ネパールでの現地調査の可否を判断し,困難である場合では中央ネパール西部に調査地域を再度設定し,2019年秋に現地調査を実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年9月に生じたネパール中部~西部での集中豪雨により,調査地への交通路が寸断され,長期間にわたり通行不能となった.そのため,予定していた現地調査,試料採取が困難となった.また,採取した試料の室内分析も予定していたが,それらも次年度に延期となったため,使用額に変更が生じた. 次年度においては,再度の現地調査を9月に予定している.しかし,状況が改善されない場合,ネパール中部地域に調査地を移して現地調査と試料採取を実施する.その上で,安定同位体組成や砕屑物組成についての室内分析を加える予定である. 次年度使用額は平成31年度(2019年度)使用額と合わせて,室内分析費と試料採取費として使用する予定である.
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