研究課題/領域番号 |
18KK0107
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高崎 正也 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10333486)
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研究分担者 |
山口 大介 岡山大学, 大学院自然科学研究科, 助教 (00735657)
水野 毅 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20134645)
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研究期間 (年度) |
2019-02-07 – 2024-03-31
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キーワード | ハプティクス / 皮膚感覚 / ディスプレイ / 超音波 / 摩擦制御 |
研究実績の概要 |
人の触覚のひとつ皮膚感覚(つるつる・ざらざらといった感覚を受容)を提示するデバイス「皮膚感覚ディスプレイ」であって,プレート形超音波振動子表面での摩擦制御を利用しているものを対象としている.従前より,埼玉大学では15 MHzの振動子を,リール大学では30 kHzの振動子をそれぞれ用いてきた.本研究では,埼玉大学チームが周波数を下げていき,リール大学チームが周波数を上げていくアプローチをとる.超音波皮膚感覚ディスプレイを開発する際の超音波周波数選択の指標のためのデータベース構築を目指している. 30 kHzから周波数を上げていくアプローチでは,研究協力者(Frederic Giraud准教授)の指導を受けながらプレート材質・寸法・圧電素子の設計を行い,リール大学の技術的支援を受けながら製作・調整を行っている.リン青銅板にPZTプレートを接着した振動子を試作した.サイドエフェクトとして,基本モードの周波数の波を短時間印加することで,クリック感の提示が可能であることを見いだした.4次モードに相当する周波数の波を重畳させることで,「カチッ」という音を出せることも見いだした.今後,超音波による摩擦制御以外の方法で皮膚感覚提示ができる可能性を示した. 15 MHzから周波数を下げていくアプローチでは,2019年度に圧電セラミクス(チタン酸ジルコン酸鉛:PZT)板で800 kHz近傍に共振周波数を持つことを見いだした.このモードを積極的に利用するために,表面電極をパターニングすることで,Q値を高めて目的とする振動モードを効率良く励振できることを見いだした.Q値が高くなると,摩擦制御を目的とした間欠駆動において,応答の遅れ(残留振動)が目立つようになる.そこで,残留振動と異なる周波数の強制振動を組み合わせて,うなりを積極的に利用して振幅制御を試みた.結果,数kHzでの振幅制御を実現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年3月の打合せにて研究協力者(Frederic Giraud准教授とリール大学博士課程学生)との連携の基礎を築くことができたものの,以来,対面での打ち合わせができないでいる.触覚に関わる研究であるため,直接装置に触れることが重要であるが,電子的なやりとりでは,それが制限されてしまう. 30 kHzから周波数を上げていくアプローチのために,リン青銅板にPZTプレートを接着した振動子を試作した.超音波を励振するためには7次程度のモードを用いることになる.サイドエフェクトとして,基本モードの周波数(200 Hz程度)の波を短時間印加することで,クリック感のような感覚の提示が可能であることを見いだした.4次モードに相当する周波数(3.5 kHz程度)の波を重畳させることで,「カチッ」という音を出せることも見いだした.音と振動を同時に放射してクリック感に似た感覚を提示することの可能性を示すことができた. 15 MHzから周波数を下げていくアプローチでは,圧電セラミクス板を用いる方法に関しても検討を開始し,50 mm×50 mm×2 mmのPZT板に表面電極を形成し,交流電圧を印加することで高次モードの振動が発生することを実験的に確認した.さらに電極構造を改良することで,共振周波数870 kHz,Q値(振動の効率を表す指数)1800を得た.当該電極構造については特許出願を行った.一方,2MHz以上の周波数帯の振動子については設計・製作が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
上記のように,二つの機関が対称的なアプローチをとるため,超音波の周波数の選択も重要である.30kHzと880kHzの間を指数的に考え,70kHz,160kHz,380kHzなどを,880kHzと15MHzの間も同様に考えて2MHzや6MHzを,それぞれ選択する事で,本研究の目的の達成に近づくと考えられる. 上記のような共振周波数を持つ,40 mm×60 mm程度のサイズのプレート型超音波振動子を設計・製作を計画していく.特に,金属板とPZTピースの組み合わせでは設計の自由度が高く,70kHz,160kHz振動子を計画していく.それぞれの周波数で得られた知見をまとめ,皮膚感覚ディスプレイの設計・製作・調整・制御のそれぞれの観点でのその周波数の長所・短所を整理していく. 15 MHzから周波数を下げていくアプローチでは,従来よりも厚いニオブ酸リチウム基板を用いて振動子の製作を試みる. 将来のアプリケーションを考えると,振動子自体は透明であることが好ましい.このために,「間接励振」(これまでに開発した技術)を用いることで,プレート部分をガラス基板とした超音波振動子も同時に計画していく. 金属板と圧電セラミクスピースで構成した振動子は透明という特性を持つことができないため,金属板をガラス板に置き換えて超音波振動子を構成する方法について検討していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスパンデミックはすぐに終息すると見込んでいたが,逆に大学への入構制限などの影響で計画通りの研究推進が困難であった.2021年度では,有限要素法解析などリモートで行うことが可能なものはリモートで推進する.実験装置を前にしなければならない計測実験に関しては,大学のレギュレーションに従い,感染拡大防止策をとった上でできる限り加速させる.我々研究者がネットを介したコミュニケーションに慣れてきたこともあり,感染拡大の影響が長期化しても,相互訪問による議論をある程度補完できると考えている.また,金属板とPZTピースの組み合わせ振動子・従来よりも厚いニオブ酸リチウム基板を用いた振動子の製作を加速して進めるため,次年度使用額は圧電材料やダイヤモンドワイヤ(圧電素子を切りそろえる「カッター」の刃に相当する消耗品)の調達に充当する計画である.
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