研究課題
スピンギャップレス半導体(SGS)実証に向けた物性探索を目的に,未だ合成例がなく,SGSとしてのバンド構造が予想されている四元等組成ホイスラー合金CoFeVSiに注目し,分子線エピタキシー法を用いた薄膜合成とその磁気伝導特性の調査を行った.研究代表者らが独自に開発した非化学量論組成蒸着法を用いることで,等組成CoFeVSi薄膜の合成に成功した.異常分散XRD測定による構造解析から,作製したCoFeVSi薄膜は,CoとFeがランダムに配置したL21B構造であることが判明した.作製したCoFeVSi薄膜の物性評価を進めていくと,低温で正の線形的なMRを観測した.詳細な電気・磁気伝導特性の評価とバンド計算の結果から,CoFeVSiにおける正の線形的なMRの起源は,フェルミ準位(EF)付近の少数スピンバンドのV由来のギャップレス構造に起因した量子MR効果と考察し,CoFeVSiにおいてはSGSでなくても正の線形的なMRが発現する可能性を示した.しかし,この考察には実験的な証拠が乏しいため,CoFeVSiのVをMnに置換したCoFe(V1-xMnx)Si薄膜を作製し,その磁気伝導特性の評価から,CoFeVSiにおける正の線形的なMRの起源にアプローチした.CoFe(V1-xMnx)Si薄膜のMRの温度依存性から,Mn濃度の増加に伴って正の線形的なMRの大きさは次第に小さくなり,x=0.75で消失した.バンド計算の結果から,CoFeVSiのVをMnに置換すると,EF付近の少数スピンバンドのV由来のギャップレス構造がバンドギャップへ変化することが判った.以上のMRの振る舞いとバンド構造の関係から,CoFeVSiにおける正の線形的なMRはフェルミ準位付近のV由来のギャップレス構造の存在が起源であると結論づけた.
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