研究課題/領域番号 |
18KK0119
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中山 恵介 神戸大学, 工学研究科, 教授 (60271649)
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研究分担者 |
渡辺 謙太 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, 主任研究官 (20725618)
清水 健司 神戸大学, 工学研究科, 客員准教授 (40821939)
丸谷 靖幸 九州大学, 工学研究院, 助教 (50790531)
久保 篤史 静岡大学, 理学部, 講師 (90803958)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | CO2フラックス / DIC / TA / SAV / hydrodynamic / global warming |
研究実績の概要 |
沿岸域の面積を広域に考えると約180万km2であり,世界の海洋の全面積の3億6000万km2の約0.5%にも満たない.しかし,気候変動を緩和するため,光合成による炭素の吸収効果が極めて高い沿岸域の藻場を利用するブルーカーボン研究が世界的に成されている.その効果は面積比に比して効率の良いことが知られている.一方で, 大水深湖沼も含めると,陸域に存在する湖沼の全面積は500万km2であり,沿岸域の約3倍にも達しているにも関わらず,炭素の放出源だと考えられていたため,炭素吸収に関する研究が進んでいない.申請者らは,これまでの報告において,淡水湖沼も沿岸域と同等がそれ以上に炭素を吸収している可能性を示した.地球温暖化対策は世界規模で行われる必要があり,国際共同研究の推進が必要とされている.そこで本研究では,西オーストラリア大学と共同で現地観測を実施し,成層流動と水環境を統合した水草モデルによる炭素貯留量の推定手法を提案することを目的とする.さらに,日本発のモデルを介した若手研究者による藻場や水草に関する研究ネットワークを構築する. 各研究者の近隣の現場での観測は継続出来ているが,新型コロナの影響により,共同研究者らと合同で現地において観測できたのは,2019年7月の北海道道東に位置するコムケ湖,および2019年11月の西オーストラリア州パースに位置するLake Mongerでの2回である.今年度は,それらの成果をとりまとめ,成層場において水草が存在することで炭素フラックスがどの程度変化するかの理論的な理解を進め,その成果を国際雑誌へと投稿した.現在,査読中である.国内の雑誌にも投稿し,その成果は掲載された.新型コロナの拡大により今年度は現地に渡航することができなかったため,今後,渡航制限が解除された後,現地にて観測を実施し,最終の取りまとめを行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道のコムケ湖における観測結果を利用し,炭素フラックスの推定に必須の溶存無機炭素(DIC)のモデル化に成功し,その成果が2020年のEcological Modellingに掲載された.その論文において,成層を考慮してDICをモデル化するための概念モデルの提案を行っており,本年度はその成果を他の淡水湖沼に適用した.国際的な連携を強める目的もあり,対象としたのは台湾の2つの湖である.Yuan Yang Lake(YYL)およびTsui-Fong Lake(TFL)と呼ばれる湖であり,それぞれ貧栄養,および中栄養と栄養レベルが異なる淡水湖沼である.数km離れて位置する湖であることから,気象等の外的条件は同じであると考えられるが,炭素フラックスがYYLでは放出,TFLでは吸収と大きく異る.本研究を進めることにより,その違いは成層と栄養レベルによるものであることがわかり,その成果はScience of the Total Environmentに掲載された. 一方で,オーストラリアのLake Mongerおよび北海道のコムケ湖における研究も並行して進め,水草が成層に与える影響,およびその結果として炭素フラックスが大きく変化することを発見した.数値計算モデルを利用した解析も実施し,両者を比較することでその再現性の高さを示すことができた.その成果を取りまとめ,現在,国際雑誌に投稿中である.研究グループ全員で集合して活動することが困難であることから,研究成果の共有はオンライン会議を利用して行っている.なお,共同研究者の一人である九州大学の丸谷助教による関連研究の成果がJournal of Environmental Sciencesに掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
2019年の合同観測の成果を利用し,それらをとりまとめて国際雑誌に投稿することができた.その内容は,水草が成層に与える影響を理論的に解明したものであり,本年度は,その理論解のより詳細な定式化を行い,新たにその成果を国際雑誌に投稿する予定である.一方で,国際雑誌に投稿した論文中で用いているSuper Submerged Aquatic Vegetation model(Super SAV model)は,分岐を有していないものであり,実際のLake Mongerなどの淡水湖沼に存在するササバモ等の形状と異なる.そこで本年度は,SAV modelを,分岐を有している水草までも再現できるものへと改良することで汎用性の向上を目指す.分岐を有する水草について,室内実験において発泡ポリプロピレンを利用して流れとの相互干渉について検討し,新しいSAV modelの再現性の検証も行う. 新型コロナの影響により,2020年以降,オーストラリアに渡航することができず,現地観測を実施できていない.そこで本年度は,2022年11月の水草の繁茂開始時期,および2023年3月の水草の最盛期に現地観測を実施する計画である.そのための試料の日本への持ち帰りの準備などを行う.合同観測の準備をかねて,申請者が毎月観測している烏原貯水池における合同観測を,研究メンバー全員(岐阜大学の丸谷助教,静岡大学の久保助教,港湾空港技術研究所の渡辺氏)で行う予定である.また,将来における予測については,担当の丸谷助教が解析を進めており,北海道のコムケ湖およびオーストラリアのLake Mongerにおける将来における外的条件(気象条件)の予測結果を得る予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年11月および2022年3月に,オーストラリアのカウンターパートである西オーストラリア大学のDr Matthew Hipsey,分担者である九州大学の丸谷助教,静岡大学の久保講師,港湾空港技術研究所の渡辺主任研究官とで,西オーストラリア州パースのLake Mongerにおいて国際共同観測を実施する予定であった.しかし,新型コロナの世界的な拡大のため,2022年3月においてもオーストラリアへの渡航が不可能となった.そのため,全研究者4人分のオーストラリア・パースへの旅費及び観測準備費用を含めて次年度使用額が生じることとなった.よって,2022年度に観測を計画している.
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