研究課題/領域番号 |
18KK0128
|
研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
矢野 創 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (00321571)
|
研究分担者 |
新井 和吉 法政大学, 理工学部, 教授 (10202706)
平井 隆之 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 研究員 (30737888)
佐藤 崇行 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 有人宇宙技術部門, 主任研究開発員 (00842296) [辞退]
佐野 琢己 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 有人宇宙技術部門, 主任研究開発員 (90870767)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
|
キーワード | 固体微粒子 / 超高速衝突 / 低速衝突 / レーザー加速 / 二段式軽ガス銃 / 自由落下 / 宇宙探査 / 国際宇宙ステーション |
研究実績の概要 |
本研究は、将来の深宇宙探査で求められる1~1000ミクロンオーダーの固体微粒子を1~1000m/sオーダーの速度で、真空中にて単発ずつ加速し、衝突現象をリアルタイムで観察できる実験機構群を、3年をめどに世界に先駆けて構築することが目的である。そのために、低速・高速・超高速の速度領域ごとに専用の固体微粒子加速機構を、日米に現存する実験装置を改良して構築する。 第二年度である2019年度には、宇宙で実証すべき各速度領域のダスト計測器とダスト捕集器のブレッドボードモデルやフライトスペアモデルを製作して、それぞれの速度域での衝突実験を開始した。具体的には、中低速衝突微粒子の捕集メディアとしてのカーボンナノチューブ(CNT)カーペットでは、法政の真空自由落下チューブと運動量伝達銃とMITのLIPITを使って10-100ミクロンオーダーの微粒子の捕集性能を評価した。中速~超高速衝突微粒子の計測器としてのPVDF薄膜型センサ「CLOTH」では、ISAS二段式軽ガス銃とMITのLIPITを使って1-100ミクロンオーダーの微粒子衝突信号を検出した。 さらにLIPITについては、1ミクロンオーダーの位置精度で二軸平面の移動を制御できる標的固定用ステージを真空チェンバ内に増設することで、真空チェンバの開閉回数を減らして、限られた出張期間にも効率よく衝突校正実験の有効データを取得できるように工夫した。LIPIT内で微粒子を射出するランチャー部についても、真空中でより高速度の加速を可能とするため、レーザーアブレーション材料と微粒子固定板の材料の組み合わせを、日本チームメンバーが長期滞在して集中的に実験を行うことで見出した。エアロゲルCNTのと宇宙実証機会である「たんぽぽ2」実験は、無事2019年夏期に打上げられて国際宇宙ステーション曝露部上で、一年間の宇宙実証試験を開始できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、以下の三本柱を行う。(1)低速・高速・超高速専用の真空中での固体微粒子加速機構を、日米に現存する実験装置を改良することで構築する、(2)全機構に共通する検証用標的を日米それぞれに開発し、地上での校正実験を行う、(3)本期間中に打上げ予定の宇宙実験・探査計画に同じ標的を搭載し、宇宙での検証実験を行う。 (1)については、低速と超高速を担当する日本の実験装置ではチーム内のこれまでの実績を生かして効率よい開発が進められ、それぞれが分担する速度領域での加速はおおむね実現できた。中速~高速を担当するMITのLIPIT装置では、2018年度に真空チェンバーを日米協力の下で新設したのち、2019年度に上流側の微粒子射出部(ランチャー)の性能向上と、下流側の高位置精度標的用ステージの増設を行うことで、当初目標としていた医学・材料科学用微粒子射出装置を宇宙探査の研究開発にも使えるように改良すできた。その結果、真空中で7ミクロンの単体微粒子を5 km/s以上で射出し、速度測定や標的センサのデータ取得にも成功した。 (2)については、日本主導で開発した3種類の標的 --超高速度用捕集材「エアロゲル」、低中速度用捕集材「カーボンナノチューブ(CNT)」、超高速度用検出センサ「PVDF(CLOTH)」-- と米国主導で開発中の超高速衝突検出新素材「圧電繊維布材(Skin)」について、それぞれ真空環境下での衝突校正実験を実施できるようになった。 (3)については、エアロゲルとCNTのフライトモデルの宇宙実証試験を、2019年夏より国際宇宙ステーションを使った「たんぽぽ2」プロジェクトとして開始できた。地球帰還後の評価分析は2020年秋以降の予定である。また2020年度にNASAが打ち上げ予定のエクレウス探査機に搭載予定のPVDFのフライトモデルは、本衝突実験の結果を反映して改修された。
|
今後の研究の推進方策 |
実は、コロナウィルス対策により日米間の往来が中断されたため、2020年冬に計画されていたLIPITでの実験計画は年度を超えて延期された。また2020年春に予定されていた米国製センサの日本国内での校正実験も、日程の再調整ができていない。したがって日米間で実験従事者と実験装置の相互受け入れを前提とした最終年度である2020年度の研究計画が予定通り進むか、現時点では見通せない。 しかし前述のように、2019年度までに上記の三本柱がすべて順調に進捗し、特に2020年度内にすべての日米機器の宇宙実証機会を獲得できたことは、不幸中の幸いである。さらに宇宙曝露したCNTが、2020年末にはやぶさ2探査機カプセルに搭載されて、地球に帰還する予定であり、その分析結果も本研究に反映できる。さらに圧電繊維布材(Skin)の材料評価用フライトモデルは、2020年春にJAXAへ納品され、同年夏に国際宇宙ステーションへ打ち上げられ、たんぽぽ2同様の宇宙曝露実験を開始し、2021年度に地球帰還する予定である。 以上から最終年度である2020年度には、ひきつづき国際協力研究にとっては困難なコロナ対策の時期が続くものの、2019年度までの成果と複数の宇宙実証機会が平行タスクとして走っている実情を生かして、日米両国の共同研究者と慎重に諮り、ひきつづきベストエフォートで成果を出し続けたい。これらを通じて、医療分野のコア技術を宇宙探査に世界で初めて応用する実績をつくり、本研究の当初目的を完遂させることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
MITに整備した真空チェンバー付レーザー加速機構と、法政大学院に整備した低速衝突機構のそれぞれを使った校正実験が2020年2-3月に予定されていたが、いずれもコロナウィルス対策によって、年度をまたいだ延期やむなしとなった。そのため、それぞれの実験で使う予定だった物品の購入を次年度に繰り越した。
|