研究課題
2018年度より開始した本研究は、将来の深宇宙探査で求められる1~1000ミクロンオーダーの固体微粒子を1~1000m/sオーダーの速度で、真空中にて単発ずつ加速し、衝突現象をリアルタイムで観察できる実験機構群を、世界に先駆けて構築することが目的である。そのために、低速・高速・超高速の速度領域ごとに専用の固体微粒子加速機構を、日米に現存する実験装置を改良して構築することを目指している。第二カ年の2019年度度までに、日米双方での実験機構群の基本的構築は完了した。そこで最終年度では、それぞれの質量・速度範囲での微粒子加速性能の検証実験、およびそれらを使った宇宙実証機会の運用と成果創出を行う予定であったが、2020年初頭より2021年秋まで、新型コロナのパンデミック流行により相互訪問が不可能となり、両国の実験機構群を用いた共同研究は全て延期された。そのため、本研究の最終年度を2022年度末までに延長する申請を日本学術振興会より認めて頂いた。共同研究者への予算配算は2020年度に行ったものの、各研究機関の予算のうち2021年秋より国内実験を再開したものの、残りの予算は米国での共同実験を再開するために温存した。この間、エアロゲルとカーボンナノチューブを宇宙実証する日本の「たんぽぽ2」実験と、PVDF繊維織物を宇宙実証する米国の「Smart Skin」両方が、国際宇宙ステーション上で一年間の宇宙曝露を行ったのち、2022年春までに無事に地球回収された。また2022年度にはPVDF検出器を搭載した「エクレウス」が打ち上げる予定である。最終年度が遅れた結果として、これらの宇宙実証機会の実データに対して、本実験機構群を使った地上校正実験結果との比較評価ができる準備が整いつつある。
3: やや遅れている
本研究では、三か年度で以下の三本柱を実施することを目指してきた。(1)低速・高速・超高速専用の真空中での固体微粒子加速機構を、日米に現存する実験装置を改良することで構築する、(2)全機構に共通する検証用標的を日米それぞれに開発し、地上での校正実験を行う、(3)本期間中に打上げ予定の宇宙実験・探査計画に同じ標的を搭載し、宇宙での検証実験を行う。(1)と(2)の実験機構開発については、2019年度末までに、おおむね実現できた。あとは各実験機構に関する性能評価・校正のための地上衝突実験を完遂すべきだが、2020年より新型コロナのパンデミックのために日米間が往来できなくなり、全ての衝突実験が約2年間凍結された。2021年秋にMITの実験室が再開したのを受け、別予算を使って、本実験研究の再開準備、実験設備の再稼働、装置性能の再評価を現地で行った。その結果、2022年度にパンデミックが収束すれば、2019年度まで行ってきたMITでの実験を継続できることが分かった。(3)については、超高速度用捕集材「エアロゲル」と低中速度用捕集材「カーボンナノチューブ(CNT)」の宇宙実証試験を、2019年夏から2020年秋まで国際宇宙ステーションを使った日本の「たんぽぽ2」プロジェクトとして実施した。NASAによるカプセル回収の遅れにより、2021年2月に曝露試料が地球帰還したので、それらの分析研究は2021年度より国内で開始した。米国側の超高速衝突検出新素材「圧電繊維布材(Space Skin)」の宇宙実証試験も、2020年10月より国際宇宙ステーション上で開始され、2022年春までに地球帰還した。超高速度用検出センサ「PVDF(CLOTH)」を搭載したエクレウス探査機の打ち上げ予定は2022年度まで延期されたが、本研究最終年度末までには、宇宙実証は開始される可能性が高い。
本研究の最終年度を再度延長し、2022年度末とすることが承認された。そこで2022年度中に新型コロナのパンデミックが収束し、日米両国の相互訪問による実験が再開できる場合には、過去2年以上程度延期されてきた各実験機構に関する性能評価・校正衝突実験を、集中的に実施する。また、たんぽぽ2、SpaceSkin、エクレウスによって宇宙実証機会を得た各機器の検証および学術的成果創出も、2022年度に集中的に実施する。なおコロナ禍下でも、日米チーム間の定期連絡会議は継続的に開催し、校正実験の準備、過去の実証実験結果に基づく成果創出を、可能な限り行う。これらを通じて、医療分野のコア技術を宇宙探査に世界で初めて応用する実績をつくり、本研究の当初目的を2022年度末に完遂させることを目指す。ただし、今後パンデミックが再び流行したり、国際情勢の不安等によって日米相互訪問による共同研究が困難になる場合は、日米の共同研究者と諮り、過去2年間同様にできる限りの次善策を講じることとする。
2020-2021年度はコロナ禍下のため、日米間の相互訪問による実験が全く実施できなかった。そこで国内での衝突実験を除き、当初予定された旅費等予算をほぼ全て温存し、2022年度に繰り延べた。共同研究者への予算配分は2020年度に行ったが、それらは2021-2022年度の活動のために充てることとした。以上から、上記のような次年度使用額が生じた。2022年度にコロナ禍が終息し、日米相互訪問が可能になった段階で、過去2年以上延期されてきた共同実験および宇宙実証データの校正評価を、本研究完遂に向けて集中的に実施するために、本予算を執行する予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
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