研究課題/領域番号 |
18KK0133
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
柳 博 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30361794)
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研究分担者 |
川西 咲子 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80726985)
鈴木 一誓 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60821717)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | SnS / 太陽電池 / コンビナトリアル製膜 |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルスの影響で海外の共同研究先に出向いて実験を遂行することが出来なかったため、前年度に国立再生可能エネルギー研究所(米国)で作製した薄膜試料に対してClのイオン注入によるドーピングを国内で試みた。イオン注入は1つの加速エネルギーで注入する1段注入法と、膜厚方向に均一に注入することを狙って異なる加速エネルギー注入する多段注入法の2種類の手法で行った。想定通り、1段注入では膜中央部のイオン濃度が高くなり、膜表面、裏面に向かって桁で注入量が減少していった。これに対して5つの加速エネルギーで注入を行った多段注入法では膜表面付近から裏面まで~1019 cm3と均一な注入が実現した。イオン注入により壊れた結晶の再結晶化と打ち込んだイオン種の活性化のためにRTAを行った。イオン注入による陌間表面に直径数十nm程度のくぼみが生じた。アニールによる解消を目指したが、逆に直径100nmの凹凸が多少生じた。これは、注入したイオンが過熱により膜中から抜け出したためと考えられる。実際、注入後のCl濃度は~0.5 at.% から~0.4 at.% に低下した。一方、注入により生じたバンドギャップ内の欠陥準位はアニール処理により若干低下した。得られた薄膜のゼーベック係数はプラスであった。ギャップ内領域の光吸収係数がアニール後も~10^4 cm-1 程度と大きく、アニール後も欠陥準位由来のホールが多数存在したためキャリアタイプの変換が生じなかったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最初の課題であったn型薄膜を2019年度に実現した。また、n型大型単結晶の育成手法を確立できたため、n型大型単結晶上にp型薄膜を製膜することでpnホモ接合を実現した。一方でその変換効率は1.4 %程度と低く改善の余地がある。SnSはp層、n層ともに薄膜化した高効率薄膜太陽電池の候補物質である。pn接合を薄膜/バルク単結晶の組み合わせでは実現できたため、次は薄膜/薄膜でのpnホモ接合が課題となる。n層の製膜条件の最適化と薄膜pnホモ接合を今年度行うことを予定していたが、新型コロナウィルスの影響で渡米できず、現地での実験ができない状況である。このため、2020年度は2019年度にNRELで製膜した薄膜の分析やイオン注入によるドーピング、事後処理による特性改善に取り組んだ。イオン注入が成功すれば注入深さを制御することで単一の膜中にpn接合を作りこむことが出来ることを狙って行った。 膜全体にイオンを注入した場合は前述の通りn型は得られず、膜の真ん中付近まで注入した場合でも整流特性は得られず、今回のイオン注入は成功しなかった。一方、Clを添加したスパッタリング法による製膜では、Clが0.5 at.%程度膜中に取り込まれ、ギャップ内の光吸収係数も~10^3 cm-1 程度まで抑制した薄膜が得られることが明らかとなった。この膜はp型伝導を示したが、事後処理の最適化でギャップ内準位をさらに減らしn型化が実現できないかさらなる検討を重ねていく。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの影響が収束し、海外の共同研究先で実験できるようになり次第、現地に行ってより高性能のn型薄膜を作製するとともにpnホモ接合薄膜太陽電池の実現を目指す。まずはn型薄膜の膜質や物性には多くの改善の余地がある。その中でも移動度の改善とキャリア濃度の制御は優先的に行う必要がある。SnSによるホモ接合薄膜太陽電池実現のためには、同じ装置を用いて物性を最適化した高品位のp型SnS薄膜の製膜も必要もある。実際に渡米できるのは今年度後半になると想定されるので、それまでに欠陥準位の解明などをDLTS測定等で行っていく。また国内での製膜体制も整え、現地で行う実験の予備実験を重ねておくことも重要であると考えている。SnS薄膜の物性最適化に加えて、素子構造の設計も重要となる。n型SnS層とITO電極の間にZnO層を入れることで変換効率は2倍になったことから分かるように、SnS層のみではなく、太陽電池を構成する各層のバンドアライメントを考慮した素子設計を行い、高変換効率の実現を目指す。日本国内とアメリカ、ドイツの新型コロナウィルスの感染状況が改善し次第現地での研究活動を再開させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で海外共同研究先に渡航しての実験ができなかったため次年度使用額が生じた。米国内の感染状況はワクチン接種の進行とともに落ち着いてきており、国内の状況もワクチン接種の進展により改善されるものと期待される。従って本年度後半には渡米しての実験を再開できると考えている。
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