研究課題/領域番号 |
18KK0135
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 清隆 北海道大学, 触媒科学研究所, 准教授 (90451997)
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研究分担者 |
大友 亮一 北海道大学, 地球環境科学研究院, 助教 (10776462)
谷口 博基 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80422525)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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キーワード | バイオマス / 固体触媒 / 酸塩基 / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
木質バイオマスから誘導される5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は多様な基幹化学品原料となる有用性の高い化合物である。HMFを酸化して得られるフランジカルボン酸(FDCA)はガスバリア性の高い高機能ポリエステルの原料であり、汎用ポリエステル原料として利用されるテレフタル酸、イソフタル酸(年間生産量>2,000万トン)の代替が有望視されている。しかし、HMFが関与する化学反応ではHMF自身が引き起こす副反応を抑制する有効な手段がなく、高濃度HMF溶液を利用したFDCA生産プロセスも確立していない。我々はHMFのホルミル部位を6員環の環状アセタールにて保護することにより、20wt%という高濃度HMF水溶液からFDCAを90%以上の高収率で合成できることを見出している。この手法をアルコール溶媒中における酸化的エステル化反応に拡張したところ、HMFアセタールからFDCAのメチルエステルおよびエチレングリコールエステルを合成することに成功した。この反応系では10-20wt%という高濃度溶液が利用できること、環境負荷低減に貢献できる酸素を酸化剤として利用できることが特徴である。詳細なメカニズム検討をオランダ・アイントフォーフェン工科大と共同で進め、系内にて生成する微量の水がアセタール部位をエステルへと変換するのに必須となることを検証した。この成果は触媒分野におけるトップジャーナルであるACS Catalysis(IF>12)に掲載された。また、同様の生産性の高いプロセスは還元反応にも適用することができた。HMFアセタール(10 wt%)をNiRe/TiO2触媒および水素ガス存在下にて還元すると高分子原料として有用なフランジメタノールが約90%収率で得られた。この成果も英国化学会のトップジャーナルであるGreen Chemistry(IF>9)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
“アセタール保護を利用したバイオマス由来アルデヒド類の反応性制御”は我々が独自に見出した手法であり、その適用範囲は大きいことが明らかになりつつある。それは次世代の再生可能資源として活用するバイオマスから得られる一次原料が還元末端(アルデヒド)を持つキシロースやグルコースであること、そこから誘導される二次原料もまた多くの場合に反応性の高いホルミル基を持つことに帰結される。包括的な研究を進める過程で、グルコースの逆アルドール反応に対してもアセタール保護が有効に作動することを実証しつつある。すなわち、申請時の目的を達成しつつ、独自のコンセプトを拡張しながら新たなシーズを発掘している。
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今後の研究の推進方策 |
HMFアセタールを活用した酸化反応、酸化的エステル化によってFDCAおよびそのエステル体を効率よく合成する手法が確立したが、さらに洗練したプロセスを目指すうえでは“保護基であるジオールの回収率の向上”と“貴金属フリーの担持触媒の利用”が大きなテーマとなる。 前者に関して、現状の回収率が80%であり、20%は酸化反応によって副生成物となることが確認されている。目的物質が生成した段階で保護基であるジオールが溶液内に遊離し、それが酸化されることが回収率低下の要因となっている。よって保護基の活用を維持しつつ、反応経路または条件を抜本的に見直すことによって回収率アップを目指す。 後者に関しては、安価な金属種として酸化反応に有効な銅、コバルト、マンガンなどの活用を目指す。具体的には担体との組み合わせを詳細に検討し、基質に対する酸化反応特性を検証することによってAu触媒に代わる高機能触媒の開発を目指す。 アセタール保護を利用した新たなバイオマス変換反応の構築にも取り組む。具体的には、グルコースの逆アルドール反応と不安定生成物であるエリスロース・グリコールアルデヒドのアセタール化を組み合わせることによって、これまで得ることができなかった2つのC2およびC4アルデヒド(前者がグリコールアルデヒド、後者がエリスロース)を合成する新しい反応系を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ肺炎の影響による海外出張が中止となったため、その費用を次年度へと繰越した。感染拡大の状況が見通せないが、渡航が可能になれば年度内に共同研究先であるオランダ・アイントフォーフェン工科大に滞在して共同研究家有働を実施するが、不可能な状況が継続すればやり取りをWebで行い、費用は消耗品費として活用する。
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