研究課題/領域番号 |
18KK0139
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
遠藤 政幸 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (70335389)
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研究分担者 |
多田隈 尚史 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (10339707)
鈴木 勇輝 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50636066)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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キーワード | DNAナノテクノロジー / DNAオリガミ / 光ピンセット / ナノ空間 / 転写反応 |
研究実績の概要 |
本研究では、DNAによって様々なナノ空間を設計・構築し、その空間内で1分子の物性の計測と反応の制御を通じて、環境要素の一つである空間が生体分子の物性に与える影響と空間-分子間に働く相互作用を解明する。 生体中でグアニン四重鎖を形成できる配列を持つ2本鎖DNAは遺伝子発現の調節に使われていると考えられている。生体内環境を模倣するため、グアニン四重鎖を形成するヘアピン型の2本鎖DNAをナノケージ中に導入し、光ピンセットを使って、1分子力測定を行い、2本鎖DNAの安定性を検討した。その結果、ヘアピン型2本鎖DNAのアンフォールディングに必要な力がケージなし対し、ナノケージ中では大幅に減少した。このことは、形成された2本鎖DNAの機械的な安定性が、ナノケージに入ることで、大きく不安定化されることが分かった。また、テロメア配列からなる2本鎖DNAでは、ナノケージ内では4種類の状態に分類され、分子長とアンフォールディング力の値から、グアニン四重鎖、i-モチーフ、あるいは2つの四重鎖の形成が検出された。つまり、ナノ空間内で2本鎖DNAがほどかれやすくなり、グアニン四重鎖やi-モチーフの形成が促進されることが明らかになった。 ナノ空間内での生体分子反応に関しては、ナノロッドにキネシンモータータンパク質を結合させたナノ輸送複合体を作成し、キネシンの分子配置がナノ輸送複合体の輸送活性に与える影響を調べた所、分子の密度が高すぎると、速度は変わらないものの、連続歩行距離が減少した。多数の分子からなるナノ空間を設計する際は、分子の自由度だけでなく、立体障害も考慮する必要がある事がわかった。また、構造変換デバイスに関しては、i-モチーフ構造の形成・解離をナノスケールの伸縮機構として利用することで、pHに応答して屈曲・伸展するDNAナノデバイス新たに構築し、AFMによりその構造変化を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、DNAオリガミ構造体で作成したナノケージ内に様々なDNA構造体、グアニン四重鎖構造、i-motif構造、ヘアピン型2本鎖構造などを導入した分子システムを構築できている。さらに、その空間内での生体分子の機械的な安定性と熱力学的な安定性を光ピンセットによって計測する測定系を構築し、検討を進めることができている。この系を使うことで、空間のデザインや化学修飾など空間環境の拡張が可能であり、引き続き研究を進展させていく。また、ナノ空間に蛋白質を集積化させる技術や、その分子配置の影響を評価する事も可能になってきており、ナノ空間が酵素活性に与える影響を更に評価していく。外部制御可能なDNA構造変換デバイスの構築も現在進展中である。
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今後の研究の推進方策 |
1. ナノ空間内部の環境に対する生体分子への影響の検討 現在使用している測定システムをさらに拡張し、特にナノ空間内部の化学修飾による環境の調整を検討する。空間内部の環境を変えるため、ポリエチレングリコール(PEG)を使ったクラウディング環境を構築し、それを進展させる。PEGで空間内部を化学修飾したナノケージはすでに作成し、様々な内部修飾を行ってきている。また、グアニン四重鎖に対するリガンドを導入した系も構築する。これら特徴的な環境を再現することで、ケージ内部でのグアニン四重鎖構造の物性測定を行う。今後も、作成した系を使って、多様な生体分子の検討と空間のデザインや化学修飾を通じて、「空間と分子間の相互作用」を明らかにしていく。 2.ナノ空間・構造を使った反応の制御法の検討 空間のサイズや空間内外環境を使って反応を制御する手法を開発する。ナノ構造の内部や外側に酵素を固定し、ナノ空間が及ぼす影響を評価する。特に転写反応と物質輸送反応を制御する分子システムを構築し、ナノ空間での反応の特性と検討を行う。また、構築したイオン応答性・pH応答性のDNAナノデバイスの動作特性,機械的特性について評価を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での研究の日数が限られたため、実際に使用した旅費が当初の計上より少なかった。
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